たとえばキャデラック。最近はアメリカンブランドは東京モーターショーにも出品しなくなったため、一般人の目に触れる機会はほとんどなくなってしまったのだが、セダンモデルの「ATS」「CTS」はアメリカ人の考える高級車らしいこってりとした雰囲気の革と木目のインテリアを持っている。

 近年、車の基本部分であるプラットフォームを刷新したことで、乗り心地が良いだけでなく、走りの性能も抜群に高くなった。加えて、望めばATSで470馬力、CTSでは実に649馬力という、日本製モデルにはないような“アメリカンマッスル”的エンジンも選択できるのだ。難点は左ハンドルしかないことだが、不便を押してでもアメリカのエキゾチックさを味わいたいという顧客には、かなりの訴求力を持っているのだ。

 キャデラックだけではない。撤退してしまったフォードを含め、今日のアメリカの乗用車を見ると、正気かと思うくらいの出力を持つエキゾチックカーがゴロゴロある。ハイパフォーマンス領域では今や600馬力超えは普通で、今や700馬力、ないしそれ以上の領域で戦っている。もちろん一品モノのスペシャルモデルではなく、れっきとしたカタログモデルだ。

 が、このような新世代アメリカ車の魅力を日本の顧客にポジティブに見てもらうためには、是正が必須な問題がある。それは価格だ。

 キャデラックの場合、販売台数が全モデル合わせて1か月に100台にも満たないということもあって、日本での販売価格はアメリカよりはるかに高い。今日のヨーロッパ車が、本国価格に対して意外なくらいに内外価格差が小さいのと比べると、大違いである。高級車は高いことに価値があるとする商慣行があるが、安いものを高く売るというのでは成功は覚束ない。まずは値段をアメリカ水準にできるだけ近づける努力をすべきだ。

 もう一点は販売網。キャデラックの場合、正規販売店は全国で18店舗しかない。これでは車の良し悪しや好き嫌いを判断する前の段階で選択から外れてしまう。

 トランプ氏は日本に車の製造と販売の分離を進めるよう圧力をかけてくる可能性があるが、その国の辿ってきた歴史を無視した要求をしても、それは大抵うまくいかない。日本で商売をする気があるのなら、何とか自前で工夫する姿勢をアメリカ側も見せるべきだろう。

 果たしてトランプ政権誕生で日本の自動車市場に変化が生まれるかどうか。通商政策が固まっていない今の段階ではすべてが未知数だが、異文化を感じさせるモデルが増えるというのなら、顧客の車離れに悩む日本の自動車業界はむしろ歓迎する可能性もある。今後の動向に注目である。

●文/井元康一郎(自動車ジャーナリスト)

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