2015年の日本の高齢化率は26.7%で、国民の約4人に1人が65歳以上の高齢者だ。現役世代と高齢者の人口比は、現在の約3対1から今世紀中頃に1.3対1まで低下する。
高齢者が増えると、社会には様々な「困ったこと」が生じるが「必要は発明の母」との言葉通り、「困ったこと」は新たなニーズを生み出して、イノベーションの元となる。
例えば、電気洗濯機のアイデアを出したのは、洗濯物に苦労していたシカゴの主婦と言われている。主婦のヒントによって企業が潜在的なニーズを発見し、アイデアを製品化したのだ。
日本でもすでに高齢化に対応している産業がある。その典型である自動車産業では、安心・安全な「スマートカー」が出ている。運転に不安の生じる高齢者にとって、「ドライブ・ア・カー」(車を運転する)から「ドリブン・バイ・カー」(車に動かしてもらう)への転換が行われている。
イノベーションはスマートカーなどハードの技術だけではない。「コンセプト」の刷新など、ソフト面での技術進歩も立派なイノベーションとなる。
好例が、赤ちゃん用紙おむつ市場に登場した高齢者用紙おむつだ。生産技術に革新的な進化があったのではなく、「高齢者が使う紙おむつ」という新しいコンセプトを思いついただけで、子供用紙おむつの出荷量を凌ぐ大ヒット商品となった。
【PROFILE】よしかわ・ひろし●1951年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部卒業後、イェール大学大学院博士課程修了。ニューヨーク州立大学助教授、大阪大学社会経済研究所助教授、東京大学助教授、東京大学大学院教授を歴任。現、立正大学教授、東京大学名誉教授。専攻はマクロ経済学。近著に『人口と日本経済』(中公新書)がある。
※SAPIO2016年12月号