高血圧や糖尿病など、慢性疾患でいつも服用する薬なのに月に何度も長時間かけて病院に通わなくてはならないことに不満を抱いている人は少なくない。医師が処方する薬が2週間分などと短期間分しか処方されないからだ。なぜこんなことが常態化しているのか。薬にまつわる「患者不在」の歪な構造の背景には、「医薬分業」という制度がある。
1970年代までは病院内で薬が処方される「院内処方」が主流だった。病院は薬を出すほどに儲けが大きくなったため、患者に大量に薬を出す“クスリ漬け医療”が横行し社会問題となった。
厚生省(現厚労省)は1974年以降、薬の処方と調剤を分離する医薬分業を推し進めた。患者の診察、薬剤の処方は医師が行ない、医師が出した処方箋に基づいて調剤や薬歴管理、服薬指導を薬剤師が行なう形である。
現在では医薬分業率は約70%に達し、調剤薬局で薬をもらう「院外処方」が主流になった。厚労省は医薬分業のメリットを、医者が出した処方箋が安全で有効かを薬剤師の目でダブルチェックできるため医療の質が向上し、医療費の抑制も図れると喧伝した。
だが、実際に起きたことは、医者と薬剤師がそれぞれの分野で利益を最大化しようとして、患者の負担を“倍増”させたことだった。
医師の処方権は強いまま残り、調剤薬局は、院内処方ではなかった「調剤技術料」や「薬学管理料」といった名目で報酬を受けている。
患者のための「医薬分業」が、患者を苦しめている現状を解消するものとして現在、注目されているのが「リフィル処方箋」制度である。
1回の処方で一定の期間、繰り返し薬を受け取れる制度のことで、すでにアメリカやイギリス、フランス、オーストラリアなど先進国で導入されている。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が言う。
「アメリカのリフィル処方箋は、薬の種類によって期間が分かれています。糖尿病薬や高脂血症薬は3か月間、降圧剤は6か月、胃薬や骨粗しょう症薬は1年間など、副作用が少ない薬ほど有効期間が長くなっています」