──調査会社に頼んだんですか?
井上:いえ、SNSです。会社の金で買ったはずのおもちゃを日本へ送った送り状の写真を、交際相手がSNSにアップしちゃったんです。ところが、そこは裁判ができない住所だった。そこは、複数の反社会的な企業が使っていることで知られるレンタルオフィスの住所だったんです。そんなところに住むことはできないですよ。なんでそんな住所におもちゃを送ったのか、あまり詳しく知りたくないですね。闇金から、金を借りちゃったんですかね。
まだ一緒に会社を運営していたころ、いまは行方知れずの元ビジネスパートナーが「知り合いがやっている金融会社だから特別に優遇してくれる。●●という商品が発売されればすぐに返せるから」と闇金から金を借りようとしたことがあったので、止めたんです。でも、勝手に個人で金を借りちゃっていたらしいんです。そのときに、ご縁ができちゃったんですかねえ。
──会社のお金を取りかえすのも、簡単にはいかないですね。裁判を起こすのがそんなに制約の多いものだったとは。
井上:その一方で、意外なことで裁判をすすめることになりました。ネットで好き勝手に書いても、見つからないし裁判になることなんてないと思っている人がいますが、そんなことはないですよ。
──ネット上の書き込みをめぐって裁判が進行中なのですか?
井上:そうです。僕に対する誹謗中傷を書いている人が数人いて、僕の会社の取引先の会社についても根拠がない中傷を書いていた。自分では放っておいたのですが、取引先から「会社の信用上困るので訴える」といわれました。そういわれると、当事者である自分が「訴えてくださいよ」とだけ言ってひとまかせにするわけにもいかない。「じゃあ、自分も訴えます」という流れで、いま裁判をしています。
──匿名で書き込んでいる誹謗中傷の場合、相手を特定するのが難しそうですね。
井上:ネットの名誉棄損における裁判は、同じ内容で2回、裁判をしなければならないのでお金も時間もかかります。でも、やって無駄はないと思います。
──2回の裁判というのは、どういうことでしょう?
井上:1回目の裁判は、誹謗中傷が書きこまれたページを持っているサーバーに対して行います。発信者情報の開示請求です。その裁判がおわると、初めてその人のIPアドレスがわかり、住所がわかり、そこで初めて、誹謗中傷した本人を相手に対する訴訟、2回目の裁判になるんです。
──確かに、同じ内容で2回の裁判をすることになりますね。
井上:相手にたどりつく前に同じ内容で一回、裁判に勝っているという言い方もできます。だから、その次の2回目の裁判で、書き込んだ本人を相手に負けることはほぼないんです。だいたい、1回目の裁判というのはプロバイダーやサーバーを運営している会社、大企業が多いのですが、そこの法務部がでてきて、会社の顧問弁護士が出てきてしっかり仕事をしている。それなのにこちらが勝てるということは、よっぽど旗色がはっきりしているからです。
──訴えられた側は、サーバー会社が負けた後、初めて自分が被告であると知るのでしょうか?
井上:もっと早くわかります。最初はプロバイダーから、「●●という人から、あなたが名誉棄損を行なっているので、あなたの情報を開示してくださいと命令書がきました。どうしますか」と通知がきます。それに「開示しないでください」と返事をすると、プロバイダーは「裁判をします」と連絡し、ここから1回目の裁判が始まります。
そしてプロバイダー側が負けたあと「裁判に負けたので、あなたのIPは開示されました」という連絡がきます。そして、原告側弁護士から「訴えます」と連絡がくるんです。この時点で、普通は弁護士を雇い、裁判ではなく示談にしようとします。なぜならその裁判は、ほぼ同じ内容ですでに1回、裁判が行われていて負けているからです。そして2回目の裁判で争って負けると、賠償金だけでなく開示費用、裁判費用もすべて払わないとならないので損ばかりだからです。