「主役の女優さんだって、そうです。大竹しのぶちゃんにしても、宮沢りえちゃんにしても、テレビでは仕事がない。映画だったら、多少は機会があったりします。でも、映画も2年か3年に1本か2本でしょう。
それだけでは食えない。だから舞台をやる。でも、舞台はキャパが小さいから、ギャラは大してもらえないんですよ。
結局のところ芸能プロダクションの主財源はCMですよ。しかも、それも大手プロダクションが握っている。ドラマもそう。共演の俳優もプロダクションの力学に付随して決まっていく。それでは人は育ちません。
もし、『今から役者になれ』と言われたら、僕は絶対になりません。あまりにも現場が寂し過ぎるから。
今の俳優さんは僕らの過ごしたような時代を知りませんから、これが当たり前と思っている。でも、芸能界って、こんなにわびしい世界ではなかった。もっと華やかだったからね。僕はいい時代にこの業界に入ったと思いますよ」
役者一筋60年近くを生きてきた男が対談の最後に吐露した言葉はあまりに痛切であった。
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
●撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2017年3月17日号