「かつては、7勝7敗で千秋楽を迎えた相手に対しては、自分が負けたら十両に落ちるといった心配のない限り負けてやるものでした。八百長とまではいかないにせよ、相手の立場を思いやる物わかりの良さがあった。お互い、ケガのリスクだって避けたい。ところが最近では、そうした暗黙のルールがなくなっている」
呼び出しの一人はそう語る。そうした変化は、2011年2月に力士の携帯メール履歴から八百長が発覚した事件以降のことだ。前年に表面化した野球賭博疑惑の捜査で警視庁が力士の携帯電話を分析した結果、八百長の存在が明らかになった。2011年春場所は中止となり、25人もの力士が引退勧告などの処分を受けた。
「以来、金銭や星の貸し借りによる八百長は確認されていないし、相手を助ける“物わかりのいい”相撲も目に見えて減った」(同前)
土俵に「私情」を一切挟まず、変人扱いされてきた稀勢の里が横綱となるなど、ガチンコ力士が急増した。
そうしたなか迎えた今回の春場所では横綱・白鵬が初日に正代(小結)、4日目に勢(前頭1)に敗れて休場に追い込まれた。
「場所直前、白鵬は稀勢の里が所属する田子ノ浦部屋に出稽古に行き、その際に右足裏を痛めたとされる。本場所に入ってそれが悪化したようですが、そもそも稽古不足だった。2月に部屋の旅行を兼ねて家族でハワイ旅行を楽しんでいたし、ガチンコ勢に向き合う準備ができていなかった」(協会関係者)
日馬富士、鶴竜も荒鷲(前頭4)、松鳳山(前頭3)といったガチンコ平幕に相次いで金星を献上。優勝争いから脱落した。
興味深いのは金星をあげて春場所を荒らした平幕たちが15日間の成績でみると振るわなかったことだ。勢と松鳳山は5勝10敗。嘉風(前頭4)は8勝7敗と辛くも勝ち越したものの、蒼国来(前頭2)は4勝11敗、荒鷲は3勝10敗2休に終わった。「金星をあげる力士はガチンコ。星が計算できないから、こういうことにもなる」(同前)というわけだ。
※週刊ポスト2017年4月14日号