国内

都心の「室内墓」 お参りしやすい環境が人気の理由

都心の「室内墓」をレポート

 首都圏を中心に、自動搬送式の室内墓が増えている。交通の便がよく、手入れも比較的簡単で、気軽にお墓参りができると好評だというのだ。そこで、ノンフィクションライターの井上理津子さんが、東京・文京区にある興安寺『本郷陵苑』の様子をレポートする。

 * * *
 2002年の開館。上から目線で恐縮だが、15年を経ているだけあって人いきれの蓄積がある。新しい建物にどこか感じがちな落ち着きのなさはない。使われてこそ建物だなあと思った。

「本館と新館に34の参拝ブースがあり、合計1万基です」と、総責任者の中澤亨さんが言う。巨大だ。利用者は、約15%が近隣、あとは交通至便なため、遠方から求めている。「会社が近いから」「巨人ファンなので東京ドームに観戦に来るときに寄るから」といったことを理由に挙げる購入者もいるとか。わざわざの墓参ではなく、「ついで」の墓参も大いにアリ、と15年の実績からうかがえる。

「母が好きだったから」と、カップのコーヒーを手に持ち、お参りに来た女性に会った。恵比寿のアルバイト先からの帰路だという板橋区の主婦、田中雪枝さん(41才)。コーヒーは本郷三丁目駅近くのカフェでテイクアウトしてきたという。「墓前に供えて、母に“どうぞ”と。それから私が飲むんです。月イチくらいの頻度でふらっと来て、母とコーヒーを媒介に会話するのが習慣になりましたね」

 カジュアルな墓参に見えるが、思いは深い。ここ本郷陵苑にお墓を求めたのは開設間もない2002年。田中さんはまだ独身で、公務員だった。

「生まれてすぐに亡くなった兄がいたんです。若かった両親は、お墓を買うお金がなく、千葉の霊園にある父の実家のお墓に、兄のお骨を長く入れてもらっていたんです。昭和11年生まれの父は17人きょうだいの下から2番目。祖母が亡くなってそのお墓が満杯になるとかで、兄の分を“出してくれ”となったんですね」

 両親と一緒に予算100万円でお墓を探したが、「茨城まで行かなきゃ100万円ではなかった」。そんなときに新聞広告で目に入ったのがここ。

「あの当時、60万円で、まず私にとっては価格ありきでした。父だけ“土の上のお墓”にこだわりたがりましたが、将来私がお墓を継ぐことを考えると、お参りのしやすさを優先することに。すでに定年後だった親に代わって私がローンを組み、いい買い物ができました。すごく喜んでいた母は、まさか自分がこんなに早くお墓に入るとは思ってなかったでしょうね。急死だったので」

関連キーワード

関連記事

トピックス

《悠仁さま成年式》雅子さまが魅せたオールホワイトコーデ、 夜はゴールドのセットアップ 愛子さまは可愛らしいペールピンクをチョイス
《悠仁さま成年式》雅子さまが魅せたオールホワイトコーデ、 夜はゴールドのセットアップ 愛子さまは可愛らしいペールピンクをチョイス
NEWSポストセブン
LUNA SEA・真矢
と元モー娘。・石黒彩(Instagramより)
《80歳になる金婚式までがんばってほしい》脳腫瘍公表のLUNA SEA・真矢へ愛妻・元モー娘。石黒彩の願い「妻へのプレゼントにウェディングドレスで銀婚式」
NEWSポストセブン
昨年10月の総裁選で石破首相と一騎打ちとなった高市早苗氏(時事通信フォト)
「高市早苗氏という“最後の切り札”を出すか、小泉進次郎氏で“延命”するか…」フィフィ氏が分析する総裁選の“ウラの争点”【石破茂首相が辞任表明】
NEWSポストセブン
万博で身につけた”天然うるし珠イヤリング“(2025年8月23日、撮影/JMPA)
《“佳子さま売れ”のなぜ?》2990円ニット、5500円イヤリング…プチプラで華やかに見せるファッションリーダーぶり
NEWSポストセブン
次の首相の後任はどうなるのか(時事通信フォト)
《自民党総裁有力候補に党内から不安》高市早苗氏は「右過ぎて参政党と連立なんてことも言い出しかねない」、小泉進次郎氏は「中身の薄さはいかんともしがたい」の評
NEWSポストセブン
阪神の中野拓夢(時事通信フォト)
《阪神優勝の立役者》選手会長・中野拓夢を献身的に支える“3歳年上のインスタグラマー妻”が貫く「徹底した配慮」
NEWSポストセブン
9年の濃厚な女優人生を駆け抜けた夏目雅子さん(撮影/田川清美)
《没後40年・夏目雅子さんを偲ぶ》永遠の「原石」として記憶に刻まれた女優 『瀬戸内少年野球団』での天真爛漫さは「技巧では決して表現できない境地」
週刊ポスト
朝比ライオさん
《マルチ2世家族の壮絶な実態》「母は姉の制服を切り刻み…」「包丁を手に『アンタを殺して私も死ぬ』と」京大合格も就職も母の“アップへの成果報告”に利用された
NEWSポストセブン
チームには多くの不安材料が
《大谷翔平のポストシーズンに不安材料》ドジャースで深刻な「セットアッパー&クローザー不足」、大谷をクローザーで起用するプランもあるか
週刊ポスト
ブリトニー・スピアーズ(時事通信フォト)
《ブリトニー・スピアーズの現在》“スケ感がスゴい”レオタード姿を公開…腰をくねらせ胸元をさすって踊る様子に「誰か助けてあげられないか?」とファンが心配 
NEWSポストセブン
政権の命運を握る存在に(時事通信フォト)
《岸田文雄・前首相の奸計》「加藤の乱」から学んだ倒閣運動 石破降ろしの汚れ役は旧安倍派や麻生派にやらせ、自らはキャスティングボートを握った
週刊ポスト
2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《不倫報道で沈黙続ける北島康介》元ボーカル妻が過ごす「いつも通りの日常」SNSで垣間見えた“現在の夫婦関係”
NEWSポストセブン