先述したように、事件解決モノがこれほど集中したのは、異例中の異例。連ドラには、ラブストーリー、家族モノ、仕事モノ、学園モノ、ミステリー、サスペンス、ファンタジー、時代劇、その他さまざまな世界を描いた作品があり、多様性で視聴者を魅了してきました。
それだけに、「安定した視聴率が獲れて大コケしないから、事件解決モノを大量に作る」というのはテレビ局の事情に過ぎず、視聴者は関係ありません。確かに事件解決モノは固定ファンの多いジャンルではありますが、中高年層が中心でアンチも存在し、「今期は事件解決ばかりで面白いドラマがない」という声も少なくないのです。それどころか、ここまで事件解決モノが偏ってしまうと、それが好きな人以外(特に若年層)は、ドラマやテレビそのものへのイメージダウンにつながり、ネットコンテンツなどに流れてかねません。
昨秋からスタートした調査で、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)、『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)、『砂の塔~知りすぎた隣人』(TBS系)、『東京タラレバ娘』(日本テレビ系)、『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)、『嘘の戦争』(フジテレビ系)の録画視聴率が2桁を超えました。いずれも事件解決モノではありません。
これは「本当に面白いものほど、愛着のあるものほど、録画視聴する」という近年の傾向そのものであり、事件解決モノで録画視聴率が2桁を超えたものはゼロ。テレビ局が視聴率重視で事件解決モノを量産するほど、視聴者層を限定し、ドラマへの熱が失われていくというリスクを考えると、春ドラマは多すぎであり、最大3分の1程度が適正なラインではないでしょうか。
もちろんテレビマンたちも、このことをまったく分かっていないわけではないでしょう。この2年間は事件解決モノを減らしてさまざまなジャンルのドラマを放送していましたし、今期の事件解決モノ9本も「視聴者から飽きられないように」と資金や人材を継ぎ込むなど努力の跡が見えます。
最悪のシナリオは、このまま高視聴率が続いて、テレビ業界全体が「やっぱり事件解決モノがいい」と思いはじめてしまうこと。事件解決モノが視聴者から飽きられ、視聴率が稼げなくなってから「他のジャンルをもっと放送しよう」と切り替えても、他のエンタメコンテンツが充実し、プライベートが多様化している現在の世の中ではリカバーが難しいでしょう。
事件解決モノの「大量投入」「視聴率上位独占」と、その陰に潜む深刻な危機。この春は放送中のドラマに期待するとして、夏以降は目先の視聴率にとらわれず、さまざまなジャンルの作品が見られることを願っています。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。