弱者も強者も平等に相対化する。美辞麗句に包まれた似非ヒューマニズムこそ、本当の差別の根源であり笑うべきと氏は鋭利に指摘する。その、捉える人によっては露悪的・下品に感じる表現の最後には、きらりと光る人間への愛が詰まっている。

 祖国アフリカに帰ろうとする黒人奴隷のジャズ・シンガーらが、幕末の日本に漂着する騒動を描いた傑作短編『ジャズ大名』(1981年)。被差別階級である黒人奴隷と共に城下の人々が狂乱のジャズ・セッションに興じるラスト・シーンは、封建社会の身分階級を超越した融和と抵抗の物語であり、なによりも筒井文学が理不尽と差別を憎む真の人間愛を基底とすることを如実に物語るものだ(1986年、岡本喜八監督により映画化)。

 今次の「炎上」騒動で氏を「ネトウヨ」「差別主義者」と糾弾する国内の人々は、およそこのような筒井文学の来歴を知らず、前述した有名な二、三作品を手に取った程度か、そもそも筒井作品自体、碌に読んだこともないのではないか。その露悪の基底に愛があることを知るツツイストの殆どは、今次の「炎上」を炎上とは考えていない。

 最近、原典に当たらないでツイッターの140文字や抜粋された短文のみでその作家の良し悪しを断定する反知性的風潮が顕著だ。『風の谷のナウシカ』の漫画版を読まず、宮崎駿を「左翼」と決めつけ批判する自称評論家もいる。ナウシカ漫画版は、むしろ左翼の設計主義・理性信仰をナウシカが「否!」と喝破する物語である。

 或いは『永遠の0』の映画版を観ずに、「原作は百田尚樹だからネトウヨ映画だ」という批判。『永遠の0』を素直に観れば、「過ちを繰り返すべからず」という反戦映画であるが、読まずに、観ずに初手の願望を基にした決めつけが先行する。

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