◆通じない朝鮮語
上陸した特殊部隊員との戦闘の主力は、陸自の中央即応集団(約4500人)となるだろう。陸自は小平学校で韓国語の教育を行っているため、中央即応集団の一部の隊員も韓国語の教育を受けているだろう。しかし、小平学校の教育内容は「韓国語の標準語」であるため、最前線で韓国語が通じることはないだろう。
北朝鮮特殊部隊員との戦闘の主力は、陸自の特殊作戦群(約300人)と西部方面普通科連隊(約660人)となるだろう。特殊作戦群の一部の隊員は韓国語の教育を受けている。しかし、最前線で韓国語が通じることはないだろう。
自衛隊が不審者を発見した場合、その人物が北朝鮮の特殊部隊員である可能性があったとしても、いきなり射殺するわけにはいかない。特殊部隊は韓国へ侵入する場合は、民間人を装うか、韓国軍を装うことになっている。このため、日本でも民間人を装って行動するだろう。
相手が特殊部隊員であることを確認するために、自衛隊は日本語と韓国語で「誰何(すいか)」することになる。しかし、相手が朝鮮語で返答してきたら、おそらく意味が分からないだろう。
最前線では怒号のようなやり取りになるだろうから、特殊作戦群の通訳を担当する隊員はかなり高度な語学力が必要となる。
◆“非現実的”な想定
防衛庁の計画は、特殊部隊の能力を十分に考慮しているとは思えず、非現実的であると言わざるを得ない。陸上幕僚監部が出した数字のほうが現実的だ。
陸自に有事に迅速に対処するための「中央即応集団」、海自に特殊部隊である「特別警備隊」が創設されたことで、自衛隊は将来起こりうる事態に対処することが可能となりつつある。これらの部隊の訓練は厳しく、隊員個人の能力も高い。アメリカ軍の特殊部隊とは規模が違うため単純に比較することはできないが、個々の隊員の能力はアメリカ軍に匹敵しているだろう。
しかし、隊員の能力がいくら高くても、数字を合わせるだけでは、北朝鮮の特殊部隊の上陸を阻止できないし、上陸した部隊を壊滅させることもできない。防衛庁は侵入する特殊部隊員の人数を「数千人」から「数百人」に1ケタ減らしているわけだが、政治的な理由で簡単に減らしていいのだろうか?
これまでは現場(制服組)の意見を無視した、政治家や官僚主導による数字の帳尻合わせで良かったのかもしれないが、そろそろ現実を直視しなければならない時期に入っているのではないだろうか。
ここに書いたことが、筆者の杞憂であることを願いたい。
●みやた・あつし/1969年愛知県生まれ。朝鮮半島問題研究家。1987年航空自衛隊入隊。陸上自衛隊調査学校修了。北朝鮮を担当。2005年航空自衛隊退職。2008年日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了。近刊に『北朝鮮恐るべき特殊機関』(潮書房光人社)がある。