日常を描き、旧来の怪談の起承転結パターンを鮮やかにすり抜けつつ、気がつけば、読み手の背筋をさわさわと涼しくしているだろう。「怪」のエッセンスが抽出されているのだ。「怖い、って、ほんとうのところ、なにが怖いんでしょうね?」語り手は問う。得体が知れないからか、それともその先に起きるなにかをすでに知っているからなのか?
かわうそ堀、うなぎ公園などユニークな場所の名前が、寓話風の味を添え、地理感覚にすぐれた柴崎友香ならではの風景描写が展開する。日常と怪異の間でゆらぐ極上のコンテンポラリー怪談だ。
※週刊ポスト2017年5月19日号