また、ある連載記事で札幌から鉄路で新千歳空港に向かった記者は情感豊かに記事をこう締めくくった。
〈トンネルを抜けると、平原にふっかりと積もった雪に陽光が強く照り返している。目を閉じ、ただただ白い残像に心を預けた〉(2017年1月28日付朝刊)
しかしその3週間後、朝日は「トンネルを抜けると、」の部分を削除するとして、こう説明した。
〈JR千歳線で札幌から新千歳空港へ向かう間に、通り抜けるトンネルはありません。沿線の林を抜ける際に視界が広がったのを、記者が勘違いしました〉(2017年2月18日付朝刊)
川端康成気取りで恥をかいた。
【PROFILE】こやの・あつし/1962年生まれ。作家、比較文学者、学術博士(東京大学)。著書に『芥川賞の偏差値』(二見書房)など。『聖母のいない国』(河出文庫)でサントリー学芸賞。
※SAPIO2017年6月号