字はうまいに越したことはないが、そもそも正しい字などこの世に存在せず、あるはずもない結論を求めて道なき道をゆく著者一流の〈右往左往ルポ〉である。

 まず、俎上に上るのは、新保氏から見ても〈“病気レベル”!?〉に汚いコラムニスト・石原壮一郎氏の字。年賀状に添えられた一言は確かに〈ミミズがのたくったような字〉そのものだが、本人は昔から〈イマイチ〉程度にしか思わなかったという。〈特にそれで困るものでもなかったし〉〈字がヘタで絵がヘタで歌もヘタで運動もヘタ〉〈それはそれで“持ちネタ”みたいな〉

「こうなると悟りの境地ですよね(笑い)。石原さんも僕同様、子供の頃は書道を習い、〈日ペンの美子ちゃん〉にフラッときたりもして、それでも字が汚いままなのは〈やる気〉の問題だと。つまり字にこだわる自分と、〈汚いけど気にしない豪快なオレ〉のどちらが好きかという美意識の差というのが石原説です」

 また、その字から、石原氏言うところの若き日の〈八千草薫〉似の美人を想像させるような字を書くという女性編集者にも本書は取材。大手出版社勤務、河並亮子さん(仮名)の出身地・埼玉県は書写教育が盛んで、県内限定の〈10Bの書写用鉛筆〉まで販売されているとか。

 ただし中学に入ると〈そういう大人っぽい字がすごくダサく見えちゃって。私の世代だといわゆる変体少女文字のちょっと進化系というか、なんか変わった字を書くのがカワイイみたいな風潮があって〉と言う。

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