山根一眞著『変体少女文字の研究』(1986年)は1980年代に一世を風靡した〈丸文字〉の正体に迫った名著。この中で山根氏が少女漫画にはないと退けたその原点を、著者は『りぼん』にあると指摘している。
「当時〈おとめちっく〉の牙城といえば『りぼん』であって、そこを調査対象にしていないのはおかしい。また女子の場合、昔からお手紙文化が盛んだからか、カワイイ字とキレイな字を使い分ける人が多いのも、僕にとっては発見でした」
流行はその後、〈長体ヘタウマ文字〉へと移り、学生運動全盛期の〈ゲバ字〉やPOP文字、カフェ文字の類まで、日本人の書き文字の変遷をも本書では遡る。
「『ハーフが美人なんて妄想ですから!!』等の著者、サンドラ・ヘフェリンさんによれば、特にアルファベット圏では字の上手ヘタを日本人ほど気にしないらしく、日本語には字の種類が多いことも巧拙の出る一因かもしれない。戦時中の兵士の手紙を見るとみんな字が上手でビックリするし、〈頭のいい人は字がヘタ〉とか、俗説が妙に多いのも日本人特有の文字意識があるからだと思うんですね。
『字は人を表わす』なんて言葉もありますけど、大人っぽい字の手紙をもらうと、やっぱり“ああ、ちゃんとした人だなあ”という印象は受けますよね。実際どうかは別にして(笑い)」