◆TPO別に字の引き出しを持つ
〈乱筆乱文にて失礼いたします〉と、各章扉に寄せた著者の直筆の進化は時々の練習成果を映して目を瞠るものがあるが、字の巧拙は結局、訓練次第なのか?
「まあペン字を習って多少マシにはなったんですけど、気を抜くとすぐ汚くなるんです。たぶん昔の人の字がきれいなのも、字は丁寧に書くべしという社会の規範に忠実だったからで、戦後はその箍が外れ、パソコン等の普及でますます日本人の字はバラバラになった。
一方で美文字ブームが起こったり、手紙や手書き風フォントなど、アナログ文化への揺り戻しもある中、せめて正式な場ではそれらしい字を書けるとか、服装と同じく、TPOに応じた引き出しを持つ方が何かと便利だという気はします」
しかし書きたいのはイイ感じの字だ。文具店に並ぶ無数の商品からゼブラ社〈サラサクリップ〉を選んだ氏は、イイ感じの字を求めて町を彷徨い、サンプルをかき集めた。読み手不在で我が道をゆく石原慎太郎の生原稿や、党首討論でガッカリするような字を平気で書く安倍首相。また、トラキチの新保氏には野球界の字も気になり、阪神・金本知憲監督の気合だけは伝わる字や広島・石井琢朗コーチの秀麗な筆字など。