2012年末の第二次安倍政権発足後、中国は日中首脳会談開催の条件として「尖閣諸島の領有権問題を認める」「靖国神社を参拝しない」との2項目を強硬に迫ったが、小泉外交や第一次政権時の失敗から学んだ安倍は無条件開催を主張し、中国の呼びかけを無視した。困った中国が条件を下げても安倍はゼロ回答を続けた。
結局、2014年11月に北京で開催されたアジア太平洋経済協力会議で約3年ぶりの日中首脳会談が実現した。ホスト国の習近平は日本の首脳と会わざるを得ず、このとき安倍と握手した習近平の仏頂面は、彼の悔しさを如実に表した。「日出づる処の天子」の国書を携えて海を渡り、隋の皇帝を感服させた小野妹子以来の日本外交の勝利と言えよう。
従来の日中外交は歴史問題や台湾問題で中国が一方的に攻め立てて日本は防戦一方だったが、最近は会談前に中国が「南シナ海や人権の話題は避けてほしい」と頼むようになった。
今年5月には菅義偉官房長官が世界保健機関の総会に「台湾の参加が望ましい」と発言したが、昔では考えられなかったことだ。
靖国で一歩も引かなかった小泉外交は日本の失点を防いだが、安倍外交は中国を攻めて得点を決めるようになった。親中派が跋扈した長い年月を経て、日中の攻守は見事に入れ替わったのである。(文中敬称略)
●やいた・あきお/1972年中国天津市生まれ。15歳のときに残留孤児2世として日本に引き揚げ。慶應大学卒業。松下政経塾塾生などを経て産経新聞社に入社。2016年まで約10年間北京特派員として中国に駐在。『習近平 なぜ暴走するのか』(文春文庫)などの著書がある。
※SAPIO2017年7月号