現場の大野について、談春が「人を緊張させない」つまり「ぼーっとした男」と言えば、監督も普段は、「嵐感も芸能人感も何も感じない」とあっさり評価。しかし、いざ立ち回りとなると、用意したスタントマンが要らないほどすごい動きを見せたと高く評価したのである。
私も長年、忍者映画・ドラマを見てきたが、『忍びの国』を見て、大きな見所は、独特の忍者の戦いっぷりにあると思った。忍者といえば、物陰から手裏剣など飛ばし、あまり姿を見せないイメージかもしれないが、無門は、敵と一対一、ものすごい接近戦で戦うのである。
手にしているのは小刀で、息がかかるほど近い距離では演技とはいえ、かわすだけでも大変だ。監督は、大野が家で立ち回りを特訓していたに違いないと指摘。その言葉を受けた大野も「家でやってました」とすんなり認めたのだった。普通、こういう展開だと「そんなに練習してないですよ」などと言う俳優も少なくないのだが、なんでしょう、この素直な感じ?
その後、『嵐にしやがれ』も、映画公開直前ということでゲストが石原さとみ。大野とふたりで人気のグランピングにお出かけ。その様子を見た出川哲朗に「石原さとみちゃんとロケに行って、なんであのテンション!?」と突っ込まれると、本人も「俺、普通だな…」とこれまた素直すぎる感想を述べていた。
自宅で熱心に稽古するエンターテイナー魂とフラットなこの存在感のギャップ。本人は意識していないかもしれないが、いつのまにか人を煙に巻く空気こそが、大野智の個性であり、特殊能力。『忍びの国』は、この能力なくしてはできない映画だった。