「多剤併用の代表的な副作用に、精神不安定や認知機能低下があります。高齢者だけに、すぐ認知症かと疑われますが、薬を削っていったらシャキッとして元気になったという例はたくさんあるのです」
◆高齢者の孤独も多剤併用の背景に
健康を守ってくれるはずの薬。いったいなぜこのようなことになっているのか。
「高齢社会とはいえ今の医療体制は、臓器別、疾患別の各専門医が自分の専門分野の知識や技術を駆使し、働き盛りの患者を完治させ社会復帰させようという考えが主流です。若い人は急性で単一の病気で医療にかかる場合が多いので、専門治療にはまさによいのですが、高齢者の多くが抱えているのは慢性的で複数の病気。病気別に専門医にかかれば、副作用が出るほど多くの薬が、しかも漫然と長期的に出されることになります。
そして、日本人は“念のため”が好き。“念のため薬を出しておきましょう”は医師の誠意であり、言われる方はちょっと安心。そんな国民性も背景にあるかもしれませんね。1人の高齢者を1人の医師が総合的に診る“かかりつけ医”を国も推進していますが、まだまだ行き届かないというのが現状です」(平井さん)
また、地域の高齢者と密接にかかわる嵯峨崎さんは、患者側の切実な心情も垣間見る。
「高齢になると血圧や血糖値、血中コレステロールはたいてい高め。何かと具合が悪く、それがとても不安なのです。社会との接点が少ない高齢者にとって医師は拠より所であり、薬は医師とのコミュニケーションツール。薬効や副作用以前に、妄信してしまっていることが少なくありません」
※女性セブン2017年8月10日号