国際情報

釜山の若者との対話【第1回】韓国リベラル知識人の本音

釜山の雑誌「INDIGO」


 ただ、そのとき、すこしだけ気がかりだったことがあった。3年前の釜山でのイベントでは、開催日が8月14日、15日。日本の終戦記念日、韓国でいう光復節(独立記念日)にもあたっていたためだ。

 2014年8月14日、空港に迎えに来てくれたのは、ヨンジュンとインディゴ書院の設立者のフア・アラムさん、そして通訳のリ・ソヨンさん。釜山市内に向かう車の中、楽しく会話を交わす中で、気になっていた質問をしてみた。今日と明日の講演で、それに先立ってまずわれわれの歴史的なことにも触れるべきかどうか。

 すると、3人は「え、それはなぜ?」と驚いて聞き返した。こちらも素直に応じた。だって、明日は日本で言う終戦記念日ですよね、ならば……と話したところ、3人は「えぇっ」と驚き、クスクスと笑った。

「僕らも参加者も、そんな問題について話をしたいわけじゃないですよ!」

 その言葉に、思っていた以上にリベラルな人たちなのだとわかった。

 だが、彼らの事務所に着いて、その活動に触れてみると、リベラルぶりは筋金入りだと知らされた。

 季刊誌「INDIGO」はA4変型の平綴じで機内誌のようなつくりだ。写真のクオリティーも高く、レイアウトデザインも美しい。ただし、その中身は機内誌のように軽くない。

 たとえば巻頭インタビューで出てくるのは、反資本主義などを考察するスロベニアの哲学者スラヴォイ・ジジェク、国家資本主義などを批判する米国の哲学者ノーム・チョムスキー、2014年のノーベル平和賞を受賞したパキスタン出身のマララ・ユスフザイ、グローバリズムや液状化社会などを指摘したポーランド出身の社会学者ジグムント・バウマン(今年1月逝去)、そして日本人では評論家の柄谷行人が特集されたこともある。一言で言えば、哲学者や人道主義の活動家が大きな柱になっている。

 そんな誌面のテーマとなっているのは、グローバリズム、市場原理主義、経済格差、宗教対立、教育格差、排外主義など世界のいたるところで起きている社会問題。具体的な事件や事象に触れながらも、それらがどんな背景をもち、なぜそんな問題が起きているのかを問いかけていくようなスタイルだ。

 非常に専門的な質問もある一方で、誰でも抱くような一般的な質問もあるのがINDIGO流で、そのハイブリッドのような感覚が本をおもしろくさせていた。

 なぜこんなプロとアマが一緒になっているような質問や構成になっているのか。

 尋ねてみると、INDIGOのおもしろい仕組みもわかった。INDIGOの編集チームは泰斗のもとに5~10人のチームで向かい、インタビューをしていたのである。その手法自体、聞いたことがないやり方だ。

「なぜって? そのほうがおもしろいじゃない」

 わけを尋ねると、ヨンジュンはニッコリしながら答えた。

 この年行った講演会場は釜山国際展示場(Bexco)という幕張メッセのように大きな会場だった。

 インディゴがおもしろい団体だと思ったのは私だけではなかった。

関連記事

トピックス

2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平バースデー》真美子さんの“第一子につきっきり”生活を勇気づけている「強力な味方」、夫妻が迎える「家族の特別な儀式」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
田久保眞紀市長の学歴詐称疑惑 伊東市民から出る怒りと呆れ「高卒だっていい、嘘つかなきゃいいんだよ」「これ以上地元が笑いものにされるのは勘弁」
NEWSポストセブン
東京・新宿のネオン街
《「歌舞伎町弁護士」が見た性風俗店「本番トラブル」の実態》デリヘル嬢はマネジャーに電話をかけ、「むりやり本番をさせられた」と喚めき散らした
NEWSポストセブン
横浜地裁(時事通信フォト)
《アイスピックで目ぐりぐりやったあと…》多摩川スーツケース殺人初公判 被告の女が母親に送っていた“被害者への憎しみLINE” 裁判で説明された「殺人一家」の動機とは
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《女優・遠野なぎこのマンションで遺体発見》近隣住民は「強烈な消毒液の匂いが漂ってきた」「ポストが郵便物でパンパンで」…関係者は「本人と連絡が取れていない」
NEWSポストセブン
記者が発行した卒業証明書と田久保市長(右/時事通信)
《偽造or本物で議論噴出》“黄ばんだ紙”に3つの朱肉…田久保真紀・伊東市長 が見せていた“卒業証書らしき書類”のナゾ
NEWSポストセブン
JESEA主席研究員兼最高技術責任者で中国人研究者の郭広猛博士
【MEGA地震予測・異常変動全国MAP】「箱根で見られた“急激に隆起”の兆候」「根室半島から釧路を含む広範囲で大きく沈降」…5つの警戒ゾーン
週刊ポスト
盟友である鈴木容疑者(左・時事通信)への想いを語ったマツコ
《オンカジ賭博で逮捕のフジ・鈴木容疑者》「善貴は本当の大バカ者よ」マツコ・デラックスが語った“盟友への想い”「借金返済できたと思ってた…」
NEWSポストセブン
米田
《チューハイ2本を万引きで逮捕された球界“レジェンド”が独占告白》「スリルがあったね」「棚に返せなかった…」米田哲也氏が明かした当日の心境
週刊ポスト