今回の件で虐待の有無は不明だが、介護施設における虐待は社会問題になりつつある。厚生労働省の調査によると、介護施設などで虐待の相談や通報があった件数は、2006年度の273件から、2015年度の1640件と急増。虐待と判断された件数も54件から408件に増えた。
◆「夜勤が多すぎる。やってられない」
5人の死傷者はみな、施設の2階にある認知症専門棟に入所していた。そのフロアは職員が暗証番号を入力しないとエレベーターは動かず、非常階段も施錠されていた。
「5人のかたがけがをしたとされるとき、施設側にはただ1人だけ、全員の介護を担当した男性がいました。それが、32才の元職員Aさんだったので、否が応でも注目されてしまったんです」(前出・記者)
Aさんは一連の事件の報道が過熱した8月17日付で自主退職。冒頭の通り、『それいゆ』の折茂理事長は、「職員や入所者の不安を抑えるために、Aさんに退職を促した」と説明する。
「最初はAさんを自宅待機にしたが、報道が過熱したので退職してもらった。Aさんが入所者に乱暴をしたという話は一切なく、Aさんを犯人と断定などしていません。あくまで関係者の不安を取り除くための処置です」
退職によってAさんはさらに注目され、新聞やテレビの報道は過熱。Aさんはテレビの取材を受けて「5人を介助した際に異常はなかった。自分は100%やっていない」と関与を否定した。
施設を辞めなければならなかった32才のAさんとはどんな人物なのか。Aさんの知人が話す。
「4人きょうだいの3人目で、公務員の両親は10年以上前に離婚しているそうです。今は『それいゆ』から車で15分ぐらいの一軒家で、母と兄と3人で暮らしています。地元の工業高校を卒業した後、数か月ごとに家電量販店など、さまざまな職を転々としていました。『それいゆ』で働いていたのも1年ぐらいで、その前も高山市にある別の介護老人保健施設『B』で働いていました。介護の仕事についたのは、『B』が初めてだったそうです」
身長は170cmほどで、細身の体形。短髪に切り揃えていて、一見すると穏やかそうな雰囲気だが、近所の住民はこう明かす。
「Aさんの家はきょうだいげんかが絶えず、窓ガラスが割れるような大きな音を出すこともけっこうあって、警察が駆けつけたこともあります。ある時も、Aさんが『自家用車を壊された』と大騒ぎをして警察を呼んだのですが、結局、自分が運転していて車をぶつけたことを忘れていただけのようなんです」
Aさんの前の職場である介護施設『B』の関係者はこう証言する。
「『B』に勤めていた期間も1年弱でした。辞めたきっかけは、入所者に対して乱暴な言動があったことを施設側が問題視したからだそうです。また、Aさんが在籍中、同僚の携帯電話をポットかコップに水没させるトラブルが起きていたのですが、Aさんの退職後は起きなくなりました」
こんな不穏な話も聞こえてきた。