姿が見えないと気づいた時には「1時間以内」がデッドラインになるという。『認知症の人と家族の会』の阿部佳世・事務局長はこう語る。
「初動が重要です。1時間以内に捜索願を出せば同じ町内で発見される可能性が高まる。“周囲に迷惑をかけては……”と遠慮しがちですが、そうしているうちに1時間以上経過すると、町内を出てしまい、顔を知る人物もいなくなる。途端に発見・保護の確率が下がります」
北海道釧路市や福岡県大牟田市では「SOSネットワーク」という新たな取り組みも始まっている。行方不明者の届け出があれば、警察だけでなく、自治体や地元のFM局が連携して情報を発信し、早期発見につなげる取り組みだ。
ただこうした取り組みは緒に就いたばかりで、大都市部を中心にした爆発的な行方不明者の増加をカバーできる態勢には程遠い。
「施設から在宅へ」という国の介護政策の大きな潮流の中で、孤独に認知症高齢者と向き合う家族の負担も増える。それはさらなる「行方不明者増」にもつながる。介護施設情報誌「あいらいふ」編集長の佐藤恒伯氏は「独居老人」の増加も見逃せないと指摘する。
「10年に500万人だった独り暮らしの高齢者は35年には1.5倍の760万人になるといわれています。独居老人が認知症で徘徊を始めたら、行方がわからなくなっても行方不明になっていることすら知られない。そうして孤独に見知らぬ土地で死んでいく悲劇を今のところ防ぐ手立ては存在しません」
“大量行方不明社会”の到来は、すぐそこに迫っている。
※週刊ポスト2017年9月15日号