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2017.09.21 11:00  週刊ポスト

ステージ4の73歳がん患者「緩和ケアの最後の1年間」

 喜びにあふれたメールが平野さんから届いた。この頃、筋力と呼吸機能が低下して、仕事場の階段を、何度も休みながら昇っていた。「お尻の筋肉がないから、座っていても痛いんだよ」と笑い飛ばす。こんな状態でありながら、平野さんは後輩7人を集めて設計の講習会を開き、自分の知識と技術を伝えた。

「がんが進行してくると、モルヒネも効かなくなってくる。ああ、痛い痛い、ありがたい、なんて言いながら、痛みを楽しんでいるさ。モルヒネの副作用の便秘も、結構つらい。眠っても倦怠感はとれない病気だと分かったから、仕事のことを考えて朝を待つ。面白いことに、寝ないでも平気になったよ」

 抗がん剤治療をしなかったことを、平野さんは後悔していないのだろうか?

「全然、後悔はないね。仕事を続ける上で、正しい選択だと思っていますよ」

●2015年7月──

 初めて自宅を訪ねると、平野さんは居間のソファに横になっていた。妻の手を借りて上体を起こすと、設計の図面を私に見せた。

「会社に行けなくなって、家で書いているんだよ。図面は見たくない! となったら本当に最後だな」

 そして夫婦の間で交わされた言葉を教えてくれた。

「昨日の夜、妻から“いっぱい働いてくれて、ありがとう”って言われたのさ。涙出てきちゃうよ」

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