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優性遺伝・劣性遺伝の誤用は知識人にも散見される

評論家の呉智英氏

 文化庁の2016年度「国語に関する世論調査」が発表された。それによれば、「知恵熱」「存亡の機」「さわり」などの言葉や慣用句で誤用が進んでいる実態が明らかになった。ところが、日常的な言葉ではなく科学技術用語まで誤用が広まっているケースがある。評論家の呉智英氏が、「優性遺伝・劣性遺伝」の誤用について解説する。

 * * *
 九月初め、日本遺伝学会が「優性遺伝・劣性遺伝」という用語を「顕性遺伝・潜性遺伝」に改訂すると発表した。私も同じことを二十年以上前から何度も提唱してきたので、これに賛同したい。

 顕性・潜性(優性・劣性)は、血液型を例にとると分かりやすい。血液型はA・B・Oの因子が二つ合わさって決まるが、Oは「潜性」因子であるため、AOやBOの組み合わせではO型にならない。OOの組み合わせのみO型になる。AOやBOではO因子は潜在しているのであり、O因子はA因子やB因子に対して現れが「劣位」にある、ということだ。この場合の優劣は、健康や能力の優劣とは全く関係ないが、誤解を生みやすいので今回の改訂となった。

 優性遺伝・劣性遺伝の誤用は、大衆のみならず知識人にも散見する。それも理系の人にである。長尾真『「わかる」とは何か』(岩波新書)に、遺伝子操作を危惧したこんな一節がある。

「ナチスドイツが試みたように、優性と判断された人たちだけを増やし、劣性と考えられた人たちは消されていくのではないか」

 ナチスの「優生思想」との混同である。「優性」はdominant、「優生」はeugenicで、全然ちがう。長尾真は京都大学工学部出身。後に同大総長となり、退任後は国会図書館長になっている。

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