今年夏、欧州では電動化の導入だけでなく、クルマから内燃機関をなくすという目標を打ち出すのが流行した。が、それから数か月のあいだに「ハイブリッドもカウントする」と、事実上のトーンダウンが相次いだ。
ハイブリッドを増やすのは、今の自動車工学の水準からいえば、造作もないことだ。モーターだけでクルマをかなりのレベルで走らせることができる、プラグインタイプを含むストロングハイブリッドはまだまだ高コスト。
だが、駆動力をちょっとアシストしたり、ブレーキ時に発電して減速エネルギーを回収したりすることがメインのマイルドハイブリッドは低コスト化、高機能化が進み、先進国向けのクルマでは当たり前の装備になるという未来像が見えるところまで来ている。
ヨーロッパでは、クルマのシステム電力を今の12ボルトから48ボルトに変え、簡易ハイブリッドを普及させるという目論見が進行中だ。筆者は2年ほど前、その試作車を運転する機会を得たことがあったが、走行中でも必要ないときにはエンジンを積極的に停止。運転のしかたによってはかなり燃費を稼げそうで好印象を抱いた。
今回の東京モーターショーでも日欧の部品メーカーがこぞってそのソリューション技術を展示していた。これも電動化にカウントすれば、EV比率は急速に上がるだろう。
だが、このマイルドハイブリッドについても、ヨーロッパが本当に本気を出しているかといえば、まだ動きが鈍いところがある。
48ボルトというのは、これが小規模なハイブリッドに適した電圧ということで決められたのではない。ヨーロッパではピーク電圧60ボルト超だと高電圧扱いとなり、自動車用部品としてはコストの高いデバイスをいろいろ装備しなければならないという規制がある。低コストシステムを目指すために、やむなく48ボルトにしているのだ。
「もう少し電圧が高くなれば、電流依存が減って効率を上げられる。100ボルトまで行ければ、マイルドとしては申し分ない。しかし、EUが規制緩和に乗り出すという話はまだ聞かない」(別の欧州部品メーカー関係者)
欧州とは規制の異なる日本では、スズキが100ボルトのマイルドハイブリッド(スズキはストロングと称している)をリリースしている。クルマの効率を良くすることを第一に考えるのであれば、それが本来のあるべき姿と言える。欧州は電動化ありきを叫んでいるが、本気度はまだそれほどでもなく、本音の部分はあくまで中国でのビジネスの継続性確保にあるものと考えられる。
ヨーロッパではマスメディアがEV転換の大合唱。その中には、社会全体でのエネルギー消費のバランスについての適正な見方とは思えない記事を大手新聞が出すこともしばしばだが、ある業界事情通は「今、ヨーロッパのマスメディアにとって、環境NGOは一大スポンサー。彼らの主張を盛り込めば広告費を稼げるという理由だけですよ」と切って捨てる。
一方で、これはあくまで噂だが、欧州の自動車メーカーは今、こぞって次世代ディーゼルの開発を秘密裏にやっている形跡があるという。熱効率50%に持っていけば、少なくともあらゆる火力発電由来の電力にCO2排出量で勝てる。それで排出ガスレベルを本当にクリーンにすれば文句はないだろうというロジックらしい。
日本勢で内燃機関の技術革新に力点を置いているマツダの関係者は少し前、
「欧州メーカーは単に死んだふりをしているんだと思う。静かにしているとき、決まってすごいことをやっているというのが彼らのパターン。電気を声高に叫んでいるよりそっちのほうが脅威」
という見方を示していたが、あながち外れていないのかもしれない。
電動化は今回の東京モーターショーでもメインテーマのひとつになっていた。将来的に電力利用がより盛んになることは確実であろうが、海外のプロパガンダに乗りすぎるのは、それはそれでリスキーという感想を抱いた。