「別の法人が事業承継する場合、利用者がもともとの事業者と結んでいた契約から不利益変更がないよう、厚労省による指導がなされています。ただし、もとの事業者がパンフレットなどに記載して約束していた以上のサービスを提供していた場合、それが受けられなくなることはあります。
これは実際にあった事例ですが、入居時の契約書に『職員1人に対し入居者2.5人という人員配置を維持する』と明記していた施設が、実際にはそれよりも手厚い1人に対し1.7人という配置で運営していた。そこが倒産に追い込まれ、事業主体が変わった時に、契約書通りの1人に対し2.5人という比率へサービスが引き下げられたのです。
こうした変更により、夜中にナースコールを押してもなかなか来てくれなくなったり、当直の人数が減らされたりするわけです」
通院の付き添いも、倒産前は送迎だけでなく、院内の付き添いまでやってくれていたのが院内の付き添いは別料金になるといったことがあるという。
さらには、入居時に交わした契約内容自体の変更を求められるケースもある。高齢者住宅コンサルタントの田村明孝氏は言う。
「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は『住宅』であり、『賃貸借契約』をしているので居住者の権利が守られ、前の事業者との契約が保全されますが、介護付き有料老人ホームの契約では、“ここを利用できます”という『利用権』で住んでいることがほとんど。
だから、利用権は保障されますが、“介護スタッフの数を減らす”といった経営方針の変更に従わざるをえない面もあります。厚労省がやっているのは、不利益変更で落差が大きくなりすぎるのは社会通念上好ましくない、という意味での指導に過ぎないのです」