そんな母の頬がしぼんだ風船のようにしわしわになり、ズボンがユルユルになっているのに気づいたのは、独居が始まって間もなくだ。
「ご飯、食べてるの?」と電話で聞くと、「ちゃんと食べてるわよ。スーパーで食べたいものを買ってくるの。気ままよ~」と、毎回、判で押したように答える。
当初は「食べたいものを気ままに」なんてうらやましい!と真に受けて、電話を切っていたが、会うたびに顔のしわが深くなっていく。ふと、母の食事風景に思いを馳はせた。
キッチンで1人分だけ料理を作るのは認知症でなくても難しいだろう。私の助言どおり総菜も買うだろうか。ご飯は何合ずつ炊くのだろう。食べるとき、テレビくらいはつけるだろうか。そうでなければ、ひとり食べながら何を考えているのだろう…。
「孤食」という言葉が浮かび、愕然とした。
今、母は3年前に転居したサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)で、朝昼晩とも入居者のお仲間と食事を囲んでいるが、これもまた驚くことに、瞬く間に顔のふくらみが戻り、しわも少し伸びた。人間は、本当に食べるものでできている。そう母が身をもって教えてくれたのだ。
※女性セブン2017年11月16日号