小笠原:ぼくも開業したての頃は、患者さんに呼ばれることも多く、緊急往診していました。今は、緊急時にはまず訪問看護ステーションに電話してもらいます。念のため、ぼくの携帯番号を教え、24時間365日、いつでも往診する態勢はとっていますが、夜中の緊急往診というのはめったにないんですよ。

橋田:どうしてですか。だって小笠原先生は在宅ホスピスで末期の患者さんもたくさん診ていらっしゃる。急変する患者さんもいるでしょうに。

小笠原:ぼくは名古屋大学医学部を出て研修医1年目のとき、上司に「小笠原、名医とヤブ医者はどう違うか言ってみろ」と、謎かけをされました。そのとき学んだことから言うと、英作さんはまだヤブ医者かもしれない(笑い)。

橋田:どういうことですか。

小笠原:橋田さんは「名医」と「ヤブ医者」の違いって、どんなことだと思われますか?

橋田:ヤブ医者は患者の状態しか診ない。名医は患者の心まで診られる。違いますか?

小笠原:ぼくは上司にこう答えました。診断を間違えたり、診断は正しくても、治療が下手だったりするのがヤブ医者。きちんと診断し、きちんと治療し、心のケアもするのが名医。そうしたら上司に「アホか、お前は」と怒鳴られました。

橋田:えっ、どうしてですか。みんなそう思っちゃうでしょ?

小笠原:でしょう。だから、びっくりしました。上司はこう言ったんです。確かにヤブ医者はお前の言う通りだ。しかしお前の言う名医は、並の医者でしかない。本当の名医は、そのあとに何が起こるか──。

橋田:読む?

小笠原:そう、読む。先まで読んで、こういう症状が出たらこういう処置をするようにと、前もって看護師に指示を出し、治療計画を立てておく。

橋田:先までわかるものですか。

小笠原:たくさんの症例を経験し、医師としてのスキルが身についてくると、将来どんな事態が起こりうるのかわかります。ですからぼくは在宅医療の現場では、緊急往診がゼロだったら100点だと思っています。

橋田:忙しいのはダメなんですね。夜中でもすぐ駆けつけてくれるような、使命感に燃えた医師という理想像を英作に託したつもりでしたが、熟練の訪問医になればなるほど忙しくない、というのを今日初めて知りました。次の『渡鬼』では、長子と英作をちゃんと朝食をとる余裕があるような夫婦にしなければいけないですね(笑い)。

小笠原:ドクターが必死になって往診ばかりしていると疲弊し、心もやせ細っていきます。だからこそ緊急往診しなくてもいいように、事前約束指示といって、次に起こる事態を予測して訪問看護師さんたちに予め指示を出し、きっちり連携しておくことが大切なんです。在宅医療のキーパーソンは、訪問看護師なんです。

橋田:まぁ、英作はまだ開業したての駆け出しですからご勘弁ください(笑い)。思いがけず取材ができました。今日うかがったことは、いずれ参考にさせていただきます。

撮影/黒石あみ

※女性セブン2017年11月30日・12月7日号

関連記事

トピックス

今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
すき家がネズミ混入を認める(左・時事通信フォト、右・イメージ 写真はいずれも当該の店舗、販売されている味噌汁ではありません)
《「すき家」ネズミ混入味噌汁その後》「また同じようなトラブルが起きるのでは…」と現役クルーが懸念する理由 広報担当者は「売上は前年を上回る水準で推移」と回答
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン