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臨床心理士が読む 引退会見に臨んだ日馬富士の深層心理

 起こした事の重大さについては「彼のためになると思い」と視線を上げたまま言い切った。だが「正しい事をしていると思うと行き過ぎることがある」と、自らの行動に対する反省は強く視線を落とす。

「酒の上か?」という問いには「お酒を飲んだからこその事件じゃない」と、強い口調で言い切っていた。発言のみならず、無意識の視線の動きとその語調の強さから、手を上げたのは悪いが、酔った勢いやはずみでの行為ではなく、それを行おうとしたことには彼なりの正義があったことがわかる。

 しかし、引退はしたくなかったのだと思う。「辞めたくはないのでは?」という質問に1~2度かすかにうなずくと、ごくりと唾を飲み込んだのだ。まるで「辞めたくなかった」という言葉を飲み込んだかのようだ。それでも前を向き「横綱としてやってはならない事をした」「横綱らしく、横綱としてけじめをつける」と日馬富士は引退理由を述べた。

 本当に相撲が大好きだったのだろう。土俵の思い出を語る時だけ、表情がわずかに和らいだ。初土俵の話では、頬がほんの少しだけ上がり、目の表情も明るく和らいでいた。17年間の相撲人生で対戦した力士に「相手たちに感謝」と眉毛に力が入ってグッと持ち上がり、「素晴らしい17年間でした」ともう一度、その言葉を強調するように眉毛をグッと持ち上げた。

 そんな引退会見を、横で見守る伊勢ヶ濱親方の心中は、さらに複雑だったようだ。加害者という立場とはいえ、精神的に追い詰められ、憔悴していただろう日馬富士。それでも横綱として引退を決意し、会見に臨んだ弟子を親方は守りたかったのだろう。繰り返される質問に、首を左右に小さく揺らす。イライラが募ると上体を大きく反らせ、不快感と怒りを露わにした。そして、それ以上は受け入れられないという思いからか、ボタンが締められた上着の前を重ね合わせるような仕草を見せてあごを引き、質問を遮ったのだ。

 親方として違和感なくすんなり納得できる引退理由もなく、守りきれなかったという思いも強いのだろう。引退の決断に関する質問を遮って「決めたというより、そうなった」と、強張った表情で述べた言葉がそれを物語っている。

 その中心にいたはずの、日馬富士や親方でさえ不可解な相撲界。今回の事件に、私たち一般人が納得できる結末は果たしてあるのだろうか?

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