「入社当初、大きな夢を描いて大物タレントに出演依頼したけど相手にされなかった。今でも企画会議では、広瀬すずさんの名前などが出ることは出る(笑い)。でも、実際に出演にこぎつけるのは難しい。だからぼくはタレントがメインでない番組作りをするしかないんです」
◆“悪魔の姉妹”の思い出
そんな高橋さんが思い返すのは、素人が参加して一芸を競う人気シリーズ『TVチャンピオン』の「つめ放題選手権」を担当したときのこと。
「そもそもそんな大会はこの世に存在しないから、選手もいない(笑い)。初回は出場者を見つけるため、東京や千葉でつめ放題をやっているスーパーがあると聞いて、そこに張り込み、気合の入った主婦を片っ端からスカウトしました。
店員から“悪魔の姉妹”と呼ばれる達人がいて、その姉妹にも出場してもらいました。にんじんつめ放題の決勝戦は大接戦でしたが、悪魔の姉妹の対戦相手の袋が破れ、その人は号泣した。それを見たら、ぼくも感動しちゃった。少しだけ特別なスキルを持つ一般人が涙を流すほど強い思いを込めてつめ放題する姿を見て、“タレントじゃなくても、こんなに面白くて心が動く番組を作れるんだ”って感動したんです」(高橋さん)
「素人番組」はテレ東に息づくDNAだ。3代目『ASAYAN』プロデューサーで現在は制作局専任局長の桜井卓也さんが言う。
「素人さんを使うコツは、“こうすればこうなる”と計算しすぎないこと。以前、普段あまり家族旅行をしていない大家族に番組から露天風呂旅行をプレゼントした時、制作側は子供たちがバシャバシャ泳ぐと想定していたら、だだっ広い風呂の端っこで家族が固まっていました。自宅の風呂と同じような入り方しかできなかったわけです。その絵が面白くて、“ああ、こういうことか”と考えさせられました」
前出の伊藤さんは企画を考える際、まず新聞のラジオテレビ欄を参照するという。
「あれは“今のテレビ”を映し出す鏡。あそこにない番組を作れば、結果として独自性が出る。ただ、他局にないものを探すのはテレ東社員として当たり前で、ぼくはテレ東にない番組を探し続けています。かつてテレ東には、お笑い番組がなかったので作っちゃった。それが今の『やりすぎ都市伝説』や『モヤさま』です。『池の水ぜんぶ抜く』も、上層部から『水を抜くだけなんてふざけている』と猛反対されたけど、全力で議論して企画を通した。大コケする可能性もあったけど、その時は全力で土下座しようと思いました(笑い)」(伊藤さん)
伊藤さんの読みは的中し、前述の通り、『池の水ぜんぶ抜く』はテレ東の新たなキラー・コンテンツとなった。演出家でタレントのテリー伊藤さんもこう絶賛する。