断られてもオファーを続けることはよくあります。小田和正さんは数年越しの交渉が実って、「井上真央ちゃんが撮るならいいよ」と、2012年に出演してくださった。じっくり半年間打ち合わせをするなど、こだわりを持ってスタートまでに時間をかける綾野剛さんのようなケースもあります(2013年放送)。そうした粘りが、その人にとって「初密着」を撮れる秘訣かもしれません。
──密着期間はどのくらい?
ミニマムは東日本大震災後1週間で放送した2011年放送の元TBSアナウンサー・小島慶子さん。特例では、同年放送の女子サッカー選手・澤穂希さんは過去の素材とW杯の凱旋インタビューを組んで1日で作りました。
最長は5年で、2016年に放送された漫画家の小山宙哉さん。『宇宙兄弟』が社会現象になった数年前に企画は通していたんですが、納得のいく素材が集まるまで粘りました。同じく2016年のトド猟師・俵静夫さんも、トドが捕れるまで1年寝かせました。平均的には3か月程度。常時20企画が同時進行している状況です。
──密着中に怒らせることは?
ありますよ。こちらの質問の仕方が悪かったり、相手の感情の起伏などで「ごめんなさい」とディレクターが謝ることはよくあります。
音楽プロデューサー・小林武史さん(2011年)はOAを見て、「ちょっと違うと思ったんだよなぁ」と話していましたが、周囲の反応で納得された。密着を通して、自分が見ている自分と人が見ている自分とのギャップを突きつけられることが多いんです。「自分が見せたくない部分を出される番組だ」と語っていた貴乃花親方も、密着を始める前にスタッフがカメラを持たないで部屋へ1週間泊まり込んで、信頼関係を築くことでいろいろ撮影させてくれた。
2013年放送の少女時代は終盤で撮影が難航。日韓問題が微妙な時期に取材の規制がかかりそうになり、ライブ中の楽屋で少女時代のスタッフと番組スタッフが1時間ほどにらみ合った。そこも時間軸での解決です。プロセスを大事にする。そしてその根底に相手に対する愛情を持つことで信頼関係が生まれる。この番組を成立させているいちばんの秘訣かもしれません。
※女性セブン2018年1月1日号