「少ない職員で多数の患者を効率的に管理するために、それがいちばん手っ取り早いんです。投薬された患者は一日中グッタリしていますよ。私も経験がありますが、注射を打たれた瞬間にグラッと来て、あとは死んだように動けなくなる」(石丸氏)
それでも暴れる患者には、最後の手段として「拘束」が待っている。
「ベッドにくくりつけられ、両手足も安全ベルトで固定されます。身動きが取れずトイレにも行けないので、おむつをはかせて糞尿は垂れ流し。もちろん室内の様子は24時間モニターで監視されている。私が入院していた時も、『これを外せ!』『トイレに行かせろ!』といった拘束患者の悲痛な叫びが看護室のモニター越しに聞こえてきました。正直、そこに人間の尊厳は感じられませんでした」(石丸氏)
入院患者の隔離と身体拘束件数は年々増え続けており、厚労省の調査(2014年)によれば、全国の精神科病院および一般精神科病床の入院患者のうち、身体拘束を受けた患者は1万673人と10年前から倍増。隔離患者数も1万89人で、過去10年間で初めて1万人を超えた。
だが、一見“人権無視”に見えるこの状況にこそ、精神疾患特有の難しさがある。昭和大学医学部教授で、閉鎖病棟に勤務経験のある精神科医・岩波明氏が語る。
「閉鎖病棟の保護室に入るのは、自分の病気について認識が乏しく、家財を破壊し、暴力を振るうなど極めて重篤な症状の患者が多い。被害妄想が強く、他者に危害を加えることや、自殺に至る恐れもある。本人にも周囲にもリスクが生じるので、行動を制限する閉鎖病棟での入院が避けられないのです」
事実、閉鎖病棟に入院する精神疾患患者への対応は、ひと筋縄ではいかない。
「閉鎖病棟の保護室で患者が着る衣類は、自殺予防のために“紐なし”と決まっていますが、それでも着衣を切り裂いて首を吊ろうとする人が絶えません。食事中に箸をのみこんで自殺を図る患者もいるため、食べている間は看護師がずっと見守ることもあります。保護室に物が一切置いてないのは、患者がそれを壊して凶器にしたり、自傷行為に使う恐れがあるからです。
隔離と拘束は決して率先して行うべき処置ではありませんが、『患者の命を守る』という点を考えた時、やむにやまれぬケースもあることを理解してほしい」(岩波氏)
日本の精神科病院は国際的にも入院が長期にわたり、全国の医療機関で精神科に入院する28万9000人のうち、1年以上の長期入院は18万5000人に上る。
※女性セブン2018年2月8日号