宮下:日本は先進国なのに、これまで安楽死という選択肢が国民的議論に発展しなかった。それはこうした「繋がり」が存在していたから。逆に今、安楽死容認論が高まっているとすれば、人と人の関係性が稀薄化しているのではないでしょうか。
養老:そして皆が不安だから、ルールが必要になったんでしょう。でも、法制化して解決する問題ではない。僕はアジアを旅していると非常に居心地がいいんです。社会が「暗黙の了解」で成り立っているから。
宮下:その言葉、今の日本だとよくないイメージに捉えられがちだけど、実は日本社会を機能させる重要な仕組みにも思えてきました。一概には言えませんが、人の最期にだって、本来、本人、家族、医師の間で「暗黙の了解」が成り立っているべきかもしれない。このテーマを2年取材して最終的に思ったのは、安楽死を良いとか悪いとか、第三者がいちいち議論すること自体が違うんじゃないかって。
養老:本当にそう思います。他人の生き方をあれこれ言うのなら、まずは自分のことを考えてみてほしい。自分は、どう生きるのがいいのかということを。
【プロフィール】
ようろう・たけし/1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。1962年東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。1995年東京大学医学部教授を退官し、2017年11月現在東京大学名誉教授。著書に『からだの見方』『形を読む』『唯脳論』『バカの壁』など多数。
みやした・よういち/1976年、長野県生まれ。ウエスト・バージニア州立大学外国語学部卒。スペイン・バルセロナ大学大学院で国際論修士、同大学院コロンビア・ジャーナリズム・スクールで、ジャーナリズム修士。主な著書に『卵子探しています 世界の不妊・生殖医療現場を訪ねて』など。
※SAPIO2018年1・2月号