「栄氏は、練習時は鬼のように厳しい半面、普段は奄美大島なまりで選手に冗談を飛ばすことも多い。吉田とは夫婦漫才の域です。選手たちのためにローンを組んで寮を作ったというのは有名ですが、特に吉田には練習場を離れても異常なまでに心血を注いできました。2010年頃に住んでいた愛知県内のマンションでは吉田と栄氏は隣同士の部屋を購入して住んでいましたし、2016年頃に引っ越した際も、別のマンションでお隣さん同士でした」
一方、伊調と田南部氏もまた、強力な信頼関係で結ばれている。
「もともと、伊調は姉の千春も含めて群れないというか、孤高の求道者のような存在でした。現在のレスリングが西日本で隆盛なのに対して、青森出身だったというのもうまく溶け込めなかった原因だったのかもしれません。伊調は、合宿や遠征時に吉田たちとは別々の行動を取ることが以前から多かったです」(別のレスリング関係者)
学生時代や全日本で指導は受けていたものの、伊調と栄氏では目指すものは同じ勝利でも、競技への考え方やアプローチの仕方は決定的に違っていた。練習法や試合の戦略も、栄氏の指示に従わないこともあったという。
「対して、田南部氏は現役時代から超ストイックで、チームの輪や協調よりも個人の能力を伸ばすことに力を注ぐタイプ。北海道出身で、伊調と地元が近かったのも波長が合った要因だったんでしょう。吉田と栄氏のように、いつも一緒というわけではありませんが、伊調と田南部氏の信頼関係もより強くなっていた」(前出・別のレスリング関係者)
コーチと選手に当然相性はある。吉田は栄氏と相性は抜群だったが伊調は違った、そんな単純なことだったはずだ。しかし、2015年に栄氏がレスリング協会の強化本部長に就任したことで、一気に雲行きが怪しくなったという。
「それまで女子だけを見ていた栄氏が、男子も見るようになったわけです。何人も五輪に送り込んでメダルを取ってきた実績を考えれば当然でしょうが、男子の関係者からは、“練習方針には口を出すくせに、結局は女子選手の強化しか頭にない”という不満が出るようになった。今回の告発は、栄氏の権力を弱めようという動きの表れだと思います」(前出・別のレスリング関係者)
リオ五輪で、吉田が銀メダル、伊調が金メダルという結果も影響を及ぼした。
「リオの結果が出た瞬間、階級は違えど単純にいえば“吉田より伊調が上”ということになり、同時に、“指導者としての能力は田南部氏の方が上”と、栄氏との序列が逆転した。スポーツの世界では、指導者の実力は選手の実績で判断されます。吉田も伊調も、それは充分理解していたと思います。自分が勝てばコーチの名声に繋がるし、負ければ名誉に傷がつく。つまり、お互いのコーチを“男”にするための闘いだった。伊調は勝って、吉田は負けた。そこから今回の告発状という場外乱闘にまで発展してしまったのでしょう」(前出・別のレスリング関係者)
伊調や栄氏には、近日中に第三者による調査が行われる。
※女性セブン2018年3月22日号