「3.11の半年前から、東北地方の太平洋側の電子基準点に次々と沈降現象が起きていた。私の予測に従えば、それは紛れもない大地震の予兆だったわけですが、“パニックになるのではないか”と躊躇し、広く注意を呼び掛けることができませんでした。研究者として、これほどの無念はありません。ですから測量学者としての地位や名誉をたとえ失うことがあっても、私の知見と信念に基づいて異常を警告していくと決めたのです。そして、少しでも予測の精度を上げるため、あらゆる知識と技術を採用してきました」
そうしたバージョンアップの集大成といえるのが、この3月から実用化されたAI(人工知能)による予測である。
「これまでは、電子基準点のデータを私と数人のスタッフのみで分析してきた。しかしデータは膨大で、マンパワーだけに頼るには限界がありますし、解析のノウハウも伝えきれない。AIを活用できれば、より客観的で高精度の予測が行なえると考えました」
村井氏が会長を務める民間会社JESEA(地震科学探査機構)は、2年前から工学博士(品質工学)の手島昌一氏が代表取締役を務めるアングルトライ株式会社と、AIシステムの共同開発を始めた。手島氏が解説する。
「我々が用いるのは、MT法(マハラノビス・タグチ法)というもので、世界の大手自動車メーカー工場などで不良品の発生予知や検査などに使われている人工知能です」