例えば映画やスポーツの試合を眺めながらアイスクリームやソフトクリームを半分こする場面は、もはやこのエッセイ集においてお馴染みの光景。その仲睦まじい姿に、読んでいるこちらが「ごちそうさま」と言いたくなる。
「やっぱり、夫にするならソフトクリームを一緒になめられるような人がいい。誰かと食べ物を分けるにしても、ソフトクリームだけは“自分の男”って思える相手じゃないと一緒になめられないから。この距離の近さは特別だなって思います」
なるほど…どうやら夫婦の幸せを実現するには、「同じ高さの目線で何事もシェアできること」が重要な役割を果たしているらしい。そのためには、いくつかのコツもまた必要となる。
「うちの父はとにかく母を褒めまくるんです。“こんなに美しい人はいないよ”って、本当にいつも言っている。そうやって相手を気持ちよくさせる言葉がすごく大事なんですよ。
今の私の夫は、それまでまったく女の人に褒め言葉なんてかけたこともないような人なのに、気づけば自然と出てくるようになりました。私が家で女友達とお酒を飲んでいる時に帰ってきたりすると、“どこの美女が二人で花を咲かせているのかと思ったよ”なんて言うわけです。それを聞いた友達が仰天していました。あれ? こんなこと言う人だっけ?って」
友人からは「どうやって変身したの?」としきりに尋ねられたそうだが、それは「夫婦にしか通じない」「人様にはお見せ出来ない」やりとりを何度も何度も重ねてきた結果だとしか答えられない。
ちなみに吉祥寺にある山田家のリビングには「うちの壁画」と呼ばれる一角がある。結婚記念日が来るたび、壁にペンで簡単な言葉やイラストを描き込んでいくうちに出来上がったそうだ。客人の目には、描き込まれたメッセージの意味するところまでは窺い知ることはできないのだけれど、その「壁画」が夫婦で共有してきた、いとおしい時間そのものを表していることは十二分に伝わってくる。
「人ってけっきょくは楽しい方向に転がっていくものなんです。だから、それがどんなにばかみたいなことでも、二人で共有していくうちに、二人だけのルールになる。ばかみたいなことの歴史を積み重ねていくと、いつかばかみたいじゃなくなるんですよ(笑い)」
撮影/五十嵐美弥
※女性セブン2018年3月29日・4月5日号