林は〈もし近い将来に東洋に戦争が起こるなら、その主役は、もう日本帝国ではなく中共帝国である〉とも記している。昨今、欧米の中国研究者たちが2049年に現代中国は完成するという論考(ハドソン研究所中国戦略センター所長・マイケル・ピルズベリーによる『China 2049』が有名。同書の邦訳は、日経BPから刊行)を次々と発表しているが、今から半世紀前に、林はそれを予言していたともいえる。
一方、「歴史の定めた運命」という考えには、否定的だ。
「私の祖父は国民党軍の兵士でした。祖国を守るために日本と戦った祖父のことを思うと、『歴史の運命』との主張を受け入れることはできません。ただ、もし私が日本人だったと仮定したら、受け入れていたかもしれない」
ただし、「国や立場によって、様々な歴史観があってよいと思う」と許氏は続けた。その言葉は、今日に至るまで激動の歴史を歩んだ台湾人ならではの含蓄を帯びていた。
同書への賛否はあれど、発表後半世紀以上を経て、海の向こうで反響が拡がっている。中国語版の裏表紙には「林房雄が本当に肯定したかったのは大東亜戦争というよりも、日本という国家だったに違いない」とあった。
台湾人だけでなく、日本人にとっても、再読に値する一冊だろう。
【プロフィール】にしたに・ただす/1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、地方新聞の記者を経てフリーライターに。2009年から上海に渡り、週刊誌などで中国の現状をレポート。近著に『この手紙、とどけ! 106歳の日本人教師が88歳の台湾人生徒と再会するまで』など。
※SAPIO 2018年3・4月号