◆自己効力感、自己有用感を得る機会が大切

 対照的なのが次の例である。かつて別々の会社で、まったく同じエピソードを耳にしたことがある。作業現場や店舗などの職場に「パートのおばちゃん」がいると、新人の離職がまったくないのだという。しかも新人が早く自立するそうだ。

 正社員ばかりの職場では、新入社員はいつも指導されたり、助けられたりするばかりだ。つまり、つねに受け身で、自分から行動したり、自分の個性を出したりする余地がない。そのため人間にとって大切な「自己効力感」(自分の能力に対する自信)や、「自己有用感」(他人の役に立っているという感覚)も得られない。すると、だんだんと仕事に行くのが嫌になり、しまいには辞めていくのだ。

 一方、そこに「パートのおばちゃん」がいると、様相が違ってくる。新入社員にとって「おばちゃん」たちは自分より年上だし、職場の人間関係も仕事のコツもよく知っている。しかし制度上は正社員の自分が上で、彼女たちに指図することもある。そこに交差的な人間関係が生まれる。

 おばちゃんたちは新人に、「店長は気分屋のところがあるから気をつけたほうがいいよ」とか、「暇な時間はちょっとくらいサボっても大丈夫だから」などとアドバイスをしてくれる。さらに、「しっかり食事をとらないと体力がもたないよ」とか、「だらしないかっこうをしていると女の子にもてないよ」などとお節介をやかれる。

 逆に新入社員のほうは、「オレ、こう見えても力はあるから重たい荷物は運んであげるわ」と手助けしたり、「おばちゃん、早く帰って子どもを迎えに行ってあげなよ」と気を遣ったりする。

 こうした対等な関係のなかで新入社員は「イヌ扱い」から解放され、主体的に行動することによって自信もついてくるのである。

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