◆「2頭の熊が同じ穴で仲良く暮らすことはできない」
こうした理由があいまって、ロシア国内には賛否両論が巻き起こっている。元世界女王マリア・ブティルスカヤを育てたロシア連邦功労コーチのエレーナ・チャイコフスカヤ氏は「大きな間違い」と批判した。
一方、浅田真央さんのコーチを務めたタチアナ・タラソワ氏は擁護。同時に、メドベージェワ選手の五輪後の発言を漏らしたエテリコーチを大人げないと批判した。その発言とは、「(同門の)ザギトワをあと1年、ジュニアにおいておけなかったのか」というもの。平昌五輪シーズンにザキトワ選手はジュニアからシニアにあがり、瞬く間に実績を上げ、五輪に出場、金メダルを手にした。ジュニアからシニアにあがるタイミングは年齢ではなく、一定の幅の中で選手個人が決められる。
メドベージェワ選手は五輪前、怪我で練習できない時間が2カ月あった。その間も、伸び盛りのザキトワ選手はぐんぐん成長を遂げた。メドベージェワ選手は五輪で完璧な演技を披露した。だが、高難度のジャンプを決めたザキトワ選手に負けた。同じコーチの下で練習する後輩に金メダルをさらわれた思いが、上記の言葉(「ザキトワをあと1年……」)として表われたのかもしれない。彼女は決して銀メダルに満足していなかったのだ。
もう一人、皇帝プルシェンコを育てたミーシンコーチは、「2頭の熊が同じ穴で仲良く暮らすことはできない」と、ロシアのことわざを用いて理解を示した。かつてミーシンコーチはプルシェンコとヤグディンというライバル選手を教えていたが、ヤグディン選手とは袂を分かった過去がある(その後、ヤグディンはタラソワに師事し、ソルトレイク五輪で金メダル)。二人のトップ選手が同じコーチの下で戦う難しさ知っているからこその発言だ。
同様のことは日本でも起きた。2008年、高橋大輔さんは、当時指導を受けていたニコライ・モロゾフコーチがライバルの織田信成さんのコーチにも就任すると、契約を解除した。モロゾフコーチは2人を同時に教えることに問題はないと考えたようだが、高橋さんは「僕は自分だけを見てほしいから」と、コーチ変更の決断を下した。