一方、乗っている人間は違う。支持を集めて単勝1.5倍の圧倒的1番人気などという場合、ジョッキーにかかるプレッシャーは相当なものになってしまう(ちなみに調教師も同じです)。
そんなジョッキーのメンタルを考えてみましょう。大きな声援の期待に応えたいと気持ちを高ぶらせ、レースのシミュレーションに念を入れるはずです。さてそのとき、「思い切ってハナを切ってやれ!」とか「じっと最後方で脚をためるか」とか、極端な作戦は取りにくい。自他ともに認める強い馬なのだから、「スタートを無難に決めて前目につけて、直線で勝負」という、まあスタンダードな作戦に落ち着きがちです。
ところが、そうは問屋が卸さない。他陣営は圧倒的人気馬を照準にして、さまざまな手を打ってきます。思い切って大逃げを打ったり、真後ろにつけてキツくマークしたり、あるいは勝負所で馬込みに閉じ込めてやろうと思うかもしれない。
ここで前言撤回、馬も自分の人気がわかります。鞍上の緊張感が伝わるのです。「おや? ○○ジョッキー、いつもと違って、なんか動きが硬いぞ」なんて思うことがあるはずです。これが「オッズの読める馬」の真実なのではないでしょうか。
●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後17年で中央GI勝利数24は歴代3位、現役では2位(2018年6月10日終了時点)。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。本シリーズをまとめた『競馬感性の法則』(小学館新書)が発売中。2021年2月で引退することを発表している。
※週刊ポスト2018年6月29日号