「このままひとりの障害者とその両親として、ずっと世間の片隅でひっそりと暮らすという未来しか想像できませんでした。私たちには、夢も希望もありませんでした」(福徳さん)

 だが、あすかさんの受け止め方は違った。“みんなと違う”ことに悩んでいた彼女は発達障害とわかって、「だから私はみんなと同じようにできなかったんだ」と納得して、安心したのだった。あすかさんは暗い顔をした両親に明るくこう告げた。

「障害者の認定を受ければ、治療費が安くなるんだって。だから障害者の申請をしたい」

 障害者手帳を取得することは、つらい現実を受け入れて、世の中に娘が障害者だと知らせることを意味する。福徳さんは躊躇した。

「父親としては、やっぱり娘には普通の結婚をして幸せになってほしかった。障害者手帳を持っていたら、あすかの恋愛や結婚の弊害になるのではと思い、なかなか受け入れられなかった」(福徳さん)

 そんな最中にまた大事件が起きる。あすかさんが解離の発作を起こして自宅の2階から飛び降り、右足を粉砕骨折する大けがを負ったのだ。

 後遺症が残り、車いすと杖が欠かせなくなった。さらなる悲劇に見舞われてますます出口が見えなくなったが、福徳さんは困難にめげないあすかさんの姿を見るうち、徐々に気持ちが変化していった。

「このままじゃいけないって思い始めたんです。娘の障害を受け入れるところからスタートするしかない。世間の片隅にとどまるのではなく、何とかしてあすかと社会がつながる方法を探して、彼女を世の中に出そうと思ったんです。目標を持って一生懸命取り組むことを持たせてやれれば、症状だってよくなるはずだと考えました」(福徳さん)

 あすかさんが一生懸命取り組めるもの──それはピアノに他ならなかった。娘がピアノに集中できるよう、夫婦はあることを決めた。

「夫が単身赴任から戻って3人で暮らすようになりましたが、あすかは2人以上を相手にする人間関係が苦手なので、夫婦で話し合って、あすかの生活の主導権を夫が握ることにしました。私はどうしても細かいことを注意してしまうので、心の広い夫の方が娘には適している。夫にバトンタッチしてから、あすかはのびのびと生活するようになりました」(恭子さん)

 この頃、田中先生は人と違うことを意識するあすかさんをそのまま受け入れて、「あなたはあなたのままでいい」と伝えた。この言葉に勇気をもらった彼女は大きく成長した。

 田中先生の指導でピアノに「開眼」した時の様子をあすかさんは手紙にこう書く。

関連キーワード

関連記事

トピックス

19歳の時に性別適合手術を受けたタレント・はるな愛(時事通信フォト)
《私たちは女じゃない》性別適合手術から35年のタレント・はるな愛、親には“相談しない”⋯初めての術例に挑む執刀医に体を託して切り拓いた人生
NEWSポストセブン
ガールズメッセ2025」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
佳子さまの「清楚すぎる水玉ワンピース」から見える“紀子さまとの絆”  ロングワンピースもVネックの半袖タイプもドット柄で「よく似合う」の声続々
週刊ポスト
永野芽郁の近影が目撃された(2025年10月)
《プラダのデニムパンツでお揃いコーデ》「男性のほうがウマが合う」永野芽郁が和風パスタ店でじゃれあった“イケメン元マネージャー”と深い信頼関係を築いたワケ
NEWSポストセブン
多くの外国人観光客などが渋谷のハロウィンを楽しんだ
《渋谷ハロウィン2025》「大麻の匂いがして……」土砂降り&厳戒態勢で“地下”や“クラブ”がホットスポット化、大通りは“ボヤ騒ぎ”で一時騒然
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(左・共同通信)
《熊による本格的な人間領域への侵攻》「人間をナメ切っている」“アーバン熊2.0”が「住宅街は安全でエサ(人間)がいっぱい」と知ってしまったワケ 
声優高槻かなこ。舞台や歌唱、配信など多岐にわたる活躍を見せる
【独占告白】声優・高槻かなこが語る「インド人との国際結婚」の真相 SNS上での「デマ情報拡散」や見知らぬ“足跡”に恐怖
NEWSポストセブン
人気キャラが出現するなど盛り上がりを見せたが、消防車が出動の場面も
渋谷のクラブで「いつでも女の子に(クスリ)混ぜますよ」と…警察の本気警備に“センター街離れ”で路上からクラブへ《渋谷ハロウィン2025ルポ》
NEWSポストセブン
クマによる被害
「走って逃げたら追い越され、正面から顔を…」「頭の肉が裂け頭蓋骨が見えた」北秋田市でクマに襲われた男性(68)が明かした被害の一部始終《考え方を変えないと被害は増える》
NEWSポストセブン
園遊会に出席された愛子さまと佳子さま(時事通信フォト/JMPA)
「ルール違反では?」と危惧する声も…愛子さまと佳子さまの“赤色セットアップ”が物議、皇室ジャーナリストが語る“お召し物の色ルール”実情
NEWSポストセブン
9月に開催した“全英バスツアー”の舞台裏を公開(インスタグラムより)
「車内で謎の上下運動」「大きく舌を出してストローを」“タダで行為できます”金髪美女インフルエンサーが公開した映像に意味深シーン
NEWSポストセブン
「原点回帰」しつつある中川安奈・フリーアナ(本人のInstagramより)
《腰を突き出すトレーニング動画も…》中川安奈アナ、原点回帰の“けしからんインスタ投稿”で復活気配、NHK退社後の活躍のカギを握る“ラテン系のオープンなノリ”
NEWSポストセブン
真美子さんが完走した「母としてのシーズン」
《真美子さんの献身》「愛車で大谷翔平を送迎」奥様会でもお酒を断り…愛娘の子育てと夫のサポートを完遂した「母としての配慮」
NEWSポストセブン