同時に、この国がいわば縄文時代以来の災害列島であったことを思うとき、さきの『方丈記』の記述があますところなく描いているようにその風土的特質が日本列島人の人生観に甚大な影響を与えていることを知るのであり、そのことを科学的に明らかにしたのが物理学者の寺田寅彦だった。その点でかれがこの世を去る昭和10年に発表した「日本人の自然観」【6】という論文はやはり逸することができない。日本列島は西ヨーロッパとは違い、地震などの天災をはじめ自然がきわめて不安定で、そのため仏教の伝来するはるか以前から「天然の無常」という感覚を身につけていたといっている。科学的な観察と宗教的な洞察が表裏一体になっているところが並みの科学者とは質を異にしているといっていい。

 もう一つ寺田の論文とともに挙げたいのが倫理学者、和辻哲郎の『風土』【7】である。寺田寅彦が「地震」という現象を通して日本人の人生観に迫ったとすれば、和辻哲郎は「台風」という現象を通して同じ問題に鍬を入れようとした。よく知られた和辻の表現に「しめやかな激情」「戦闘的な恬淡」というのがあるが、そのいい方の中にも死と無常を内包する人生観をうかがうことができるだろう。

 最後に拙著『わたしが死について語るなら』(ポプラ新書)を挙げておこう。上に挙げた本や宮沢賢治の詩などの内容を説明しながら、私自身の人生観を小学生にもわかるように語ったものである。

【プロフィール】やまおり・てつお/1931年サンフランシスコ生まれ。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。国際日本文化研究センター、国立歴史民俗博物館、総合研究大学院大学名誉教授。和辻哲郎文化賞、南方熊楠賞など受賞歴多数。著書多数、近著に『山折哲雄の新・四国遍路』(PHP新書)。

※SAPIO 2018年7・8月号

関連記事

トピックス

割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
3年前に離婚していた穴井夕子とプロゴルァーの横田真一選手(Instagram/時事通信フォト)
《ゴルフ・横田真一プロと2年前に離婚》穴井夕子が明かしていた「夫婦ゲンカ中の夫への不満」と“家庭内別居”
NEWSポストセブン
二刀流かDHか、先発かリリーフか?
【大谷翔平のWBCでの“起用法”どれが正解か?】安全策なら「日本ラウンド出場せず、決勝ラウンドのみDHで出場」、WBCが「オープン戦での調整登板の代わり」になる可能性も
週刊ポスト
高市首相の発言で中国がエスカレート(時事通信フォト)
【中国軍機がレーダー照射も】高市発言で中国がエスカレート アメリカのスタンスは? 「曖昧戦略は終焉」「日米台で連携強化」の指摘も
NEWSポストセブン
テレビ復帰は困難との見方も強い国分太一(時事通信フォト)
元TOKIO・国分太一、地上波復帰は困難でもキャンプ趣味を活かしてYouTubeで復帰するシナリオも 「参戦すればキャンプYouTuberの人気の構図が一変する可能性」
週刊ポスト
世代交代へ(元横綱・大乃国)
《熾烈な相撲協会理事選》元横綱・大乃国の芝田山親方が勇退で八角理事長“一強体制”へ 2年先を見据えた次期理事長をめぐる争いも激化へ
週刊ポスト
2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン