国内

伯母が亡くなる前日の病室、厳かな雰囲気で天使がいるみたい

伯母は命を燃やして走り切った(写真/アフロ)

 83才の認知症の母を介護するN記者(54才・女性)。そんな母は夫、姉を看取ったことが、死生観に大きな影響を与えている。親しい人の最期を看取ってきた母にとって、死とはどんな意味を持っているのだろうか。N記者が綴る。

 * * *
 母は9人姉弟。私が子供の頃の正月や法事には、おじ、おば、いとこたちが一堂に会し、大賑わいだった。

 それを仕切っていたのは、最年長のRおばちゃんだ。明るくてパワフルな働き者で、宴の間も忙しく動き回りながら、常に会話の中心にもいて、おしゃべりはまるで機関銃。でも私たち子供が話しかければ、嬉しそうに相手をしてくれた。

 母たちは「お姉さんはすぐ人を支配したがるのよ」などとやっかみの陰口も叩いたが、私もいとこたちも、Rおばちゃんが大好きだった。

 私が大学生の頃には、母には言えない恋の悩みもRおばちゃんに打ち明けた。すると、「Nちゃんの好きな人、おばちゃんが見定めてあげる!」と言って、彼氏との待ち合わせを隠れて見に来た。特に何をするわけでもなく、駅の柱に見え隠れするおばちゃんの姿が、おかしくて嬉しかった。

 そんなRおばちゃんは生涯独身。母たちが出た実家を守り、70代の初め頃に人知れず認知症になった。親戚が集まる機会も減り、気づくと家中、汚れ物があふれていたそうだ。弟妹で家を片づけ、母が新聞広告で老人ホームを見つけて来たという。

 Rおばちゃんが老人ホームで暮らした10年の間に、母をはじめ5人のおじ、おばが次々に認知症を発症。先頭を行くRおばちゃんは、徐々に表情や言葉を失いながらも、「ここはご飯がおいしい。毎日楽しいよ」と言い続けた。

 妄想が激しくなった母もおばちゃんを見舞うときだけは、「よかったね。ここ私が探して来たのよ」と正気に戻り、かいがいしく世話を焼いた。

 Rおばちゃんに最後に会ったのは亡くなる前日だった。死期が近いようだとの知らせに、妄想で私を泥棒扱いする母をなだめて連れ出した。老人ホームのベッドでRおばちゃんは寝息を立てていた。

「食べ物も受け付けなくなって…。生き切ることだけにエネルギーを使っているの。目覚めて意識を使うだけでも、体力を消耗しますからね」と、見守ってくれている保健師さんが教えてくれた。

 Rおばちゃんが無表情の向こうで忙しく旅立つ準備をしているのだと思うと心が落ち着いた。そして厳かな空気に包まれ、天使がいるような気配がして感動した。悲しみとは違う。

関連キーワード

関連記事

トピックス

10月に公然わいせつ罪で逮捕された草間リチャード敬太被告
《グループ脱退を発表》「Aぇ! group」草間リチャード敬太、逮捕直前に見せていた「マスク姿での奇行」 公然わいせつで略式起訴【マスク姿で周囲を徘徊】
NEWSポストセブン
65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《梨園に誕生する元アイドルの嫁姑》三田寛子と能條愛未の関係はうまくいくか? 乃木坂46時代の経験も強み、義母に素直に甘えられるかがカギに
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(クマの画像はサンプルです/2023年秋田県でクマに襲われ負傷した男性)
ヒグマが自動車事故と同等の力で夫の皮膚や体内組織を損傷…60代夫婦が「熊の通り道」で直面した“衝撃の恐怖体験”《2000年代に発生したクマ被害》
NEWSポストセブン
対談を行った歌人の俵万智さんと動物言語学者の鈴木俊貴さん
歌人・俵万智さんと「鳥の言葉がわかる」鈴木俊貴さんが送る令和の子どもたちへメッセージ「体験を言葉で振り返る時間こそが人間のいとなみ」【特別対談】
NEWSポストセブン
大谷翔平選手、妻・真美子さんの“デコピンコーデ”が話題に(Xより)
《大谷選手の隣で“控えめ”スマイル》真美子さん、MVP受賞の場で披露の“デコピン色ワンピ”は入手困難品…ブランドが回答「ブティックにも一般のお客様から問い合わせを頂いています」
NEWSポストセブン
佳子さまの“ショッキングピンク”のドレスが話題に(時事通信フォト)
《5万円超の“蛍光ピンク服”》佳子さまがお召しになった“推しブランド”…過去にもロイヤルブルーの “イロチ”ドレス、ブラジル訪問では「カメリアワンピース」が話題に
NEWSポストセブン
「横浜アンパンマンこどもミュージアム」でパパ同士のケンカが拡散された(目撃者提供)
《フル動画入手》アンパンマンショー“パパ同士のケンカ”のきっかけは戦慄の頭突き…目撃者が語る 施設側は「今後もスタッフ一丸となって対応」
NEWSポストセブン
大谷翔平を支え続けた真美子さん
《大谷翔平よりもスゴイ?》真美子さんの完璧“MVP妻”伝説「奥様会へのお土産は1万5000円のケーキ」「パレードでスポンサー企業のペットボトル」…“夫婦でCM共演”への期待も
週刊ポスト
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン