「それでも私は何も言いません。私も一介のボランティアだからです。もちろん、『どうしたらいいんでしょう』と聞かれれば答えますが…」

 トレードマークの赤いハチマキやツナギにも意味がある。

「地味な色では元気が出ませんし、山で捜索するときは目立った方がいい。あまり言いたくないですが、被災地ではどさくさに紛れてドロボウが出ることもある。だから、わざと目立つ服装をしています。私は怪しい人間じゃないぞ、とね」

 尾畠さんが被災者に接するときに大切にしていることがある。

「ボランティアは被災者に根堀り葉堀り聞かないことです。家が流されたかもしれないし、ご家族が亡くなったかもしれない。これからの生活に途方に暮れているかもしれない。自分が被災者だったら、あれこれ聞かれるのは嫌だなと思うんです。聞くことはたった1つ。『おけがはなかったですか?』。この一言だけです」

 もちろん、話を聞いてほしいという人がいれば、徹底的につきあう。

「東北の震災で、浮かない顔をしたかたがいて、もし悩んでいることがあれば話してくれませんかと言ったことがあります。聞くと、倒壊しそうな家の中に、“親の形見の琴”を残してきたそうです。とび職の経験を生かして、取ってきてあげたら、たいそう喜んでくれました」

 尾畠さんと一緒に活動をした経験がある南三陸町社会福祉協議会の三浦真悦さんの話。

「尾畠さんが特別なのは、“被災者の気持ちに寄り添える”こと。『思い出探し隊』では、誰が写っているかわからないような写真でも、“すべての写真1枚1枚に思い出がある”と、とても丁寧に集めて、汚れを落としていたのが印象的でした。尾畠さん、以前はお酒が大好きだったそうです。でも、『東北から仮設住宅がなくなるまで断酒する』と、今も気持ちを寄せてくれています」

「かけた情けは水に流せ、受けた恩は石に刻め」──それが尾畠さんの座右の銘だ。苦労を苦労とも思わないのは、若いときにつらさを乗り越えたゆえか。彼の精神から学ぶべきことは多い。

※女性セブン2018年9月6日号

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