水戸と言えば水戸黄門と納豆…ではもはやない。私の中で水戸と言えば『カメ止め』である。浄水場にはすでに市水道局と水戸市職員が待機され、丁寧に施設を案内してくれた。話を聞けば聞くほど、この映画が市の協力無しには作り得なかったことが分かってくる。
フィルムコミッションという制度がある。これは映画制作者に、原則無償で自治体がロケ地の場所や施設を提供するという映画製作支援制度である。全国の自治体で大小の同様支援があるが、芦山浄水場が『カメ止め』に供されたのも、この水戸市フィルムコミッションを製作チームがフル活用した結果なのだ。
職員に聞いて更に驚いた。『カメ止め』の撮影期間8日間、市職員が常に無償で待機を続けるという手厚いバックアップぶり。このような自治体の映画製作支援が無ければ『カメ止め』は生まれなかったのである。私は本誌前号で「官」が主導するCJ(クールジャパン)機構がいかに野放図に海外で乱費しているか、その実態の一端をマレーシアにおける現地取材として徹底批判して寄稿した。
確かに、民間の分野に「官」が関わると碌な事は無い。が、ことフィルムコミッションについては、「官」の支援は瞠目するべき成果を上げている。その最高事例こそが本作『カメ止め』である。
閉鎖された芦山浄水場は、廃墟独特の静寂に包まれていた。戦前の建物らしく丸い小窓と重厚な作りの古壁。廃墟となって四半世紀がたつものの保存状態は割合良く、市の施設保存努力のたまものであろう。とはいえ窓ガラスは割れ、付属施設には巨大な蜘蛛の巣が張られている。この絶妙な廃墟感がたまらなくよい。私は夢中でシャッターを切った。またとない『カメ止め』の聖地巡礼企画。雑誌として名乗りを上げたのは「御誌が初めてです」と職員は言う。我ながら鼻が高い。