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混乱のイラクで愛を撒くドクターの物語

 これまでJCFでは、難民キャンプの人たちの健康を守るため、PHC診療所の整備にかかわってきた。

 イラクでは、中央政府とクルド自治政府の間に確執がある。大きな危機があるのになかなか信頼関係を築けない。そこで、JCFが両者の接着剤になる形で、難民キャンプに3つのPHC診療所を作ってきた。

 医療内容も充実し、外科、内科、産婦人科、小児科、歯科などもそろっている。レントゲンやエコー、血液検査ができる医療機器も、JCFが寄付をした。イラク国内のPHC診療所のなかでも、最高の評価を受け、アルビルの県議会議長からは、JCFの日本人スタッフと現地スタッフ全員に感謝状が渡された。

 そんななか今年度は、さらに2つのPHC診療所を整備する。その一つのトプザワPHC診療所は人口7万人の地域医療の要となる。本来は病院が必要だが、地域の健康を守る拠点としての機能を、この診療所が担うことになる。

 これら5つのPHC診療所のまとめ役をしているのが、小児科医のバッサーム医師。柔和な笑みを浮かべる50代後半のオッサンドクターである。

 ぼくたちJCFのスタッフになる前は、モスルで小児科医をしていた。しかし、テロ組織IS(「イスラム国」)がモスルを占領すると、キリスト教徒の彼は身の危険を感じるようになる。ついに家と職を捨て、当時14歳のダウン症の娘を連れて、アルビルへと逃げてきた。4年前の夏のことだ。

 ところが、娘のラナさんがアルビルに着いた翌日、体調を崩してしまう。病院へ連れていくと、白血病であることがわかった。ダウン症の子は白血病のリスクが高いのだ。

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