「将来は教師になりたい」と夢を語ったのはアフメド君。一緒に来た次男は医師になりたいと言い、こんなことを語った。
「戦争でぼくたちは家族を失いました。もう二度と戦争はいや。宗教の違う同級生とも、友だちになるようにしたい」
バッサーム医師は、「教師も医師もとても大切な仕事だ。しっかり勉強して、だれもが夢をもてる、新しいイラクをつくれるのは君たちだ」と言って、二人を抱きしめた。日本から来た2人の看護師は、そんなバッサーム医師に敬意を表し、「愛の人」と言った。そのやさしさはどこから湧いてくるのか知りたいという。
彼は、娘のラナさんの存在が自分を変えてくれた、と語りだした。我が子がダウン症として生まれてきたとき、この子と一緒に生きていこう、それによって自分も何か変わるかもしれないと思った。そして、ISから逃げるなかで白血病が見つかり、それが寛解したとき、もう憎むことをやめよう、感謝しながら生きていこう、と考えるようになったという。
アルビルでは、屋台でごはんを食べていると、貧しい子どもたちがガムなどを売りに来る。かわいそうに思って1人から買うと、ほかの子どもたちに取り囲まれてしまうので、ぼくはなんとなく目が合わないようにしている。
しかし、バッサーム医師は、近寄ってきた子どもの肩を抱きしめ、やさしく話しかけながら、背中をポンと押しだす。結局、ガムは買わないのだが、子どもたちは不思議と安心したような顔になっていく。