お約束の結果とはいえ、大盛況のうちに幕を閉じたこの興行の後で柳川は、猪木と金一とともに青瓦台に招かれ、首相の金鍾泌(キムジョンヒル)から直接ねぎらいの言葉をかけられている。柳川はこの功績により大韓プロレス協会の名誉会長に就任した。

「韓国が豊かでなかった時代、白黒つけやすいプロレスは国民を統合するのにちょうど良い手段でした。地域ごとのチームによる野球やサッカーでは、韓国の激しい地域対立を煽りかねませんから」

 金一の弟子だったレスラーの李王杓(イワンピョ)をソウル市内の自宅に訪ねると、当時のことをそう振り返った。

 韓国を代表する金一と日本を代表する猪木。2人の直接対決は、国民を熱狂させ、独裁政権への不満の格好のガス抜きとなった。朴正熙政権が柳川に興行を依頼した狙いはそこにあったのだろう。

◆大山への挑戦状

 新日本プロレスの新間は、韓国興行の後に柳川とこんなやりとりをした。

「柳川さんが世話になったから500万円を持って行けというのです。『両国の親善のためですから頂くわけにはいきません。猪木からもそう言われています』とつっぱねました」

 すると、二週間後に柳川から電話があり大阪を訪れることになった。

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