「それだけのまとまったお金を用意できる人は他にいない。それで取りあえず借りたんですが、試合後は利息をつけずに8000万しか返しませんでした。そうしたら利息分を寄越せと脅されてね」
困った新間らが駆け込んだのはやはり柳川だった。新日本プロレスのために骨を折ることにした柳川は、木本宛に手紙をしたためた。
〈前回も自腹を切って私が韓国へプロレスを持って行き、アントニオ猪木も自分のギャラも投打って韓国の為に尽くしてくれた。昨年の十月の興行でも韓国のプロレス協会は貧しいので私が立て替えてプロレスを連れていっている。(中略)猪木も新間も韓国の為にどれだけPRしてくれたか。この様な人々にアイソをつかされる様では我々韓国人にとってもどれだけ損かわからない。お前も今一度良く考えて新日本プロレスの為にあたたかく見守ってやるべきではないか〉
在日韓国人としての柳川の気負いすら感じられる手紙に、木本も矛を収めるしかなかった。
●たけなか・あきひろ/1973年山口県生まれ。北海道大学卒業、東京大学大学院修士課程中退、ロシア・サンクトペテルブルク大学留学。在ウズベキスタン日本大使館専門調査員、NHK記者、衆議院議員秘書、「週刊文春」記者などを経てフリーランスに。著書に『沖縄を売った男』。
※SAPIO2018年9・10月号