橘:中川さんの本を読んで僕が理解したのは、ブログは出版とはぜんぜんちがう世界だということです。出版の場合は、読者というのはあくまでもコンテンツにお金を払ってくれる人のことですが、テレビの視聴者はコンテンツを無料で楽しむ人たちですよね。そう考えると、ブログを読みにくる人たちのなかで「読者」はごく一部で、大半は「視聴者」だということを前提にしないとダメだと気付きました。
「読者」と「視聴者」では、関与の度合いというか、コミュニケーションのかたちがちがうんだと思います。書籍でも雑誌でも、読者とのあいだにある種の連帯感が生まれるのは、お金を払って読んでくれているからですよね。面白くなかったり、不愉快だと思えば買わなくなるだけですから。それに対して無料のコンテンツは、「読みたくないものを読まされた」と感じて批判を誘発しやすい。それに書き手が反論したり、気に入らないコメントを削除するだけでも炎上しますよね。
中川:あぁ……。「都合の悪いコメントを消しやがって、言論封殺乙!」みたいな話ですね。
橘:中川さんの本を読んで、ブログのコメント欄はスパムフィルター以外は何もつけないかわりに、いっさい反論しないことにしました。「僕が好きなことを書いているんだから、あなたにだって好きなことを書く権利がある。どうぞご自由に」ということですね。
最初の頃はけっこう絡んでくる人もいたんですが、「このブログはそういうルールなのか」というのがわかってくると、「橘玲は“降臨”しないし、そもそもコメント欄を読んでもいないんだから、そんなことしても無駄だよ」と意見する人が出てきたりして、だんだん減っていきました。なんの反応もないと面白くないからでしょう。最近ははてなブログにエントリーが紹介されて、そこに匿名のコメントが殺到するようになりました。書き手のブログより気楽にコメントできるからでしょうね。
いまはブログには『週刊プレイボーイ』のコラムをアップするだけで、それをYahoo!個人にも転載しているのですが、最近ではこちらのプラットフォームで読まれることが多くなりました。「女児虐待死事件でメディアがぜったいいわないこと」という記事がはじめて100万PVを超えたのですが、Yahoo!の仕様でコメントはFacebookユーザー限定となっているのでコメントは10件ほどです。それに対してはてなブログでは150件ちかくコメントされています。これなどが象徴的ですが、中川さんの本を読んで「ああ、そうなのか」と納得できたことはたくさんあります。(続く)
◆橘玲(たちばな・あきら):作家。1959年生まれ。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『言ってはいけない 残酷すぎる真実』『(日本人)』『80’s』など著書多数。
◆中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):ネットニュース編集者。1973年生まれ。『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『夢、死ね! 若者を殺す「自己実現」という嘘』『縁の切り方 絆と孤独を考える』など著書多数。
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