今まで想像すらしなかった、勝手だけれど、父から母への感謝と親密な思いが詰まった手紙に、私はしばし絶句してしまいました。普段は手に負えない父の、混沌と、苦悩と、純粋さが妙に腑に落ち、母が誰にも見せることなく、それを大切に自分の本棚にしまってあったことに納得してしまいました。そして、長年、私の心のどこかで許しがたかった父と母のあり方へのわだかまりがすーっと解けていくのを感じたのです。こんな単純なことで、あれほど長年かけて形成された重いかたまりが溶け出すはずがないと自分に呆れつつも、母が時折、自虐的に笑って言いました。私が他所から内田家に嫁いで、本木さんにも内田家をついでもらって、みんなで一生懸命家を支えているけど、肝心の内田さんがいないのよねと。
私が唯一親孝行できたとすれば、本木さんと結婚したことかもしれません。時には本気で母の悪いところをダメ出しし、意を決して、暴れる父を殴ってくれ、そして、私以上に両親を面白がり、大切にしてくれました。何でもあけすけな母とは対照的に、少し体裁のすぎる夫ですが、家長不在だった内田家に、静かにずしりと存在してくれる光景はいまだにシュールすぎて、少し感動的でさえあります。けれども、絶妙なバランスが欠けてしまった今、新たな内田家の均衡を模索するときが来てしまいました。
怖気づいている私はいつか言われた母の言葉を必死で記憶から手繰り寄せます。
『おごらず、人と比べず、面白がって、平気に生きればいい』
まだたくさんすべきことがありますが、ひとまず焦らず家族それぞれの日々を大切に歩めたらと願っております。生前母は密葬でお願いと私に言っておりましたが、結果的に光林寺でこのように親しかった皆さんとお別れができたこと、またそれに際し、たくさんのかたがたのご協力をいただく中で、皆様と母との唯一無二の交流が垣間見えたことは残された者として、大きな心の支えになります。
皆様、お一人おひとりからの生前の厚情に深く感謝しつつ、どうぞ今後とも故人同様、おつきあいいただき、ご指導いただけますことをお願い申し上げます。
本日は誠にありがとうございました。
※女性セブン2018年10月18日号